人外なる者
「『雷よ』」
真っ赤なコートを纏った女性が言葉を吐くと頭上の暗雲から雷鳴が鳴るとともに白服に身を包んだ人々を漏れなく焼き◯した。
仲間が一息に大勢倒されたにも関わらず白服の大群が押し寄せてくる。それを留めようと狩人達と激しい戦闘が行われている。
「世界中の信者を集める手段が?」
「数千はくだらないですね姫よ」
女性の近くにいた全身凶器の鎧に身を包んだ人が答えた。既にこの2人だけで数百は超える信者を排除したが、パッと見て数千人以上はまだ押し寄せている。更に奥に進む程信者の強さが上がり、こちらの被害も無視できない。
「これ以上の被害は避けたいですね。次の攻撃で皆さん下がって下さい!『大地よ割れろ』」
「貴女にだけ負担を強いるつもりはありません姫。私としても第一級としての騎士道があります。『突沸』」
大地が割れたのも束の間、大地が突然噴き上がりマグマが噴き出す。大規模な災害で一気に数千は大地に還った。
「この程度で疲れるなら『九つの星』の称号を賜っていませんよ」
そう言って怪我人は出たものの、二人の最大戦力により、瞬く間に敵は殲滅されていく。
「流石第一級は違うな……」
「おい!さっさと引くぞ!」
「そんなに急がなく『黒炎病蚊』」
油断から前線を早く離れなかった者、または足が遅い者が突然激しく苦しみだした。よく見ると、皮膚の露出が多かった者ほど影響は大きく、皮膚が壊死し、黒い火で構成されたウジ虫が現れ、蝕み始めた。
「これは……!『星の守りを』!」
ファルスファリアが咄嗟に張った結界でまだ症状が現れていない者を保護した。しかし、既に苦しむ者達は醜い怪物の姿となり三分も経たずに少し溶けた骨のみが残った。
その被害はかつての仲間と思われる人が数十人、白一教の信者はそれ以上の被害が生まれていた。
「仲間ごと!?」
「相手が正気だと考えては死にますよ」
「何と残虐な……」
腐卵臭が漂い、幾千の骨が散らばる地獄となった戦場に、浮かび上がるように白鎧と喜びの笑みを浮かべる老人、血走った目の巨漢らしき人影があった。
「『隕石落下』」
彼女が呟くと同時に空から途轍もない速度で2cmもない大きさの隕石が複数個衝突した。
「『蜃気楼』」
「『黒炎病蚊』」
煙で隠れた場所から小さな黒火の蚊が知覚出来るほど大群が出てきたが、蜃気楼によって誰もいない方向に向かった。
「さっきのは蚊?」
「恐らくあの様に人を骸にするスキルでしょう」
「……助かりました」
「守れて何よりです。ですが、あの者達を速やかに排除しなければいけません」
険しい視線を辿ると三人の人影があった。隕石が小型とはいえ直撃をした筈だったが、平然と立っている。
「第一級相当ですな、姫。それにしてもあれは何ですか?」
「……占いでは『天使』と」
「あれが?私には人を玩具と思っている怪物が創り出した天使像にしか見えません。あれを生き物と呼ぶのも烏滸がましい」
隕石の直撃で足に裂け目がある老人の体の内側から臓◯が見えた。すぐに傷が治り、痛みも感じた様子がない姿は、もう人に化けた異形にしか見えない。
「星々の使徒が邪魔しに来るとは不敬な」
「我らが神以外を信仰しているとは可哀想に。今すぐにでも洗脳から解かなくては!」
「目覚めるのは貴方達の方ですよ」
「何も問題はないぞ哀れなる子よ。我らが神は寛容でいらっしゃる。恐れることは無い!」
「それに貴殿ほどの者であればより神に仕えられる!教祖様が再誕の儀式をしてくださるであろう!!」
「『雷よ』」
一言唱えるだけで今まで抑えていた出力が上がり、幾千の雷が降り注いだ。
「『大規模転移』」
巨漢がスキルを発動すると更に広がる暗雲が消え、後方の拠点に転移した。
「!『雷よ止まれ』」
彼女が急いで雷を止めたが、雷が二個降り注いでしまった。幸いにも手前の木に落ちた事で被害は出ていない。
「厄介な……!」
「何と嘆かわしい!救いさえ気付かぬほど堕とされたのか?!忌々しき星々よ!!」
「あぁ、神よ。我々は彼女の為に何をすれば良いのか……!!」
「………気持ち悪い」
「姫、相手の話など聞くだけ無駄です『突沸』」
先程の雷ほど発生に猶予がなく一瞬にして大地が噴火した。仲間に攻撃を転移される事は無かったが巨漢の男は老人と転移して避け、鎧の男は自力で避けた。
「攻撃が早ければ問題ない。私に任せて下さい、姫よ」
「さっきから姫はやめて下さい、アウジリオさん。貴方より年上ですよ?」
「歳は関係ありません。私が献身する女性は全て姫です。私は貴女に秘める高貴さ、誰にも穢せない尊き御心にお仕えしているのです」
「何でこんな変な奴ばかり集まるのか……」
「紳士とは変な者なのです」
「…………」
「そうだ、そうだったのですか!敬愛なる神よ!」
「生ける者として救えぬなら、亡き者としてその心を解き放す事が我らが使命!」
「ならば早急に解放してやらねば。来い『魔剣テラッサ』」
鎧の男が手を翳すと地面より管を挟んだ形状の剣が現れた。アウジリオが彼女の前に出たが、隣に転移してきた巨漢と老人に掴まれて何処かに転移してしまった。
「貴方だけで相手をするつもりですか?」
「時間稼ぎをするだけなら充分。あの男を信者足り得るか審判する方が早いと判断したまで。『テラッサ』」
男が唱えると同時に剣の筒から太い光が放出された。ファルスファリアが結界を張ると強い衝撃が後方へ通り抜けた。それと同じくして高温の熱波が彼女の結界を覆うように周りの土をガラスに変えた。
「この魔剣から出る光は質量の性質を兼ね備えている。山を吹き飛ばすこれを無視できるかな?」
「はぁ」
深いため息を吐くと彼女は深いフードを外した。現れた顔は信仰する神に全てを捧げた信者が思わず見惚れてしまうほど美しかった。その目に白と黒が漂う混沌が広がる。
「さっきから皆、私のことを舐め過ぎでは?」
少しイライラした声色の彼女は咎める様な顔をした。
「何故第一級の階級に序列を付けるだけでいい所を、わざわざ別枠で『九つの星』を創り出したのか知らないのですか?神に知識も全て捧げたのですか?」
話が進むにつれて彼女の雰囲気が……いや、世界が変化していく。
「何故『人類の希望』と称されるのかも忘れた?あなたの神はお馬鹿がお好きなのですね」
気付くと彼女がいる周りは全て平坦になっている。立っていた筈の男は抵抗することさえ出来ずに大地にひれ伏した。それも始まりに過ぎず徐々に大地にめり込み始めた。神への冒涜に反論する猶予さえ与えられない。
「『ここは元々絶対零度の世界で、私だけ常温の世界だった』」
そう彼女が設定すると全ての存在が凍り、彼女以外に動くモノは存在しなかった。
「アウジリオくんは………あとで助ければ問題ない、はず……」
彼女が地下にある教会に向かう途中、鎧の男は踏まれて粉々になった。去った後には人型の窪みがあるだけだった。
実際の自然現象をある程度操作して使用できるスキルと考えて下さい。




