いざ前線へ
天瀬は成林と別れて愛知県の中心部にあるオフィスビルを訪れた。迷う事なく社長室に向かう青年の姿は警備員に止められる筈だが、誰にも不思議な顔をされない。むしろ慣れたように挨拶をしている者さえいる。
「皿目さんお久しぶり」
「…………おう」
「天瀬さんお久しぶり〜」
社長室には厳つい顔の男と男装した美女が居た。
「……何もやってないぞ」
「知ってますよその位」
皿目と呼ばれた男は怪訝そうな顔をしながらも一息つくように水を飲んだ。
「それにしても天瀬さんが来るの珍しいですね」
「今日は雀さんに用事があるんですよ」
「おや、私にですか?」
「白一教は知っていますか?」
「あぁ、厄介な組織ですよね」
「そうそう。その教団の情報を聞きに来たんですよ」
「うぇ〜」
キリッとした雰囲気を醸し出していた彼女は気を抜くように机の上に突っ伏した。
「面倒くさい所に首突っ込んでいるんですか?」
「巻き込まれただけですよ」
「お前の事だ。半分は意図的なものだろ?」
「今回は完全に巻き込まれただけですよ。突然娘をお迎えしろとか意図が全く読めないですよ」
「「娘?」」
事の経緯を簡単に説明すると「コイツマジか」とかなり引かれてしまった。
「つまり、娘を助ける為の情報が欲しいと」
「下さい」
「俺はそっちの情報は全くない。聞くなら桜井にしろ」
「そうですね……ちょっとまだ繋がってるツテに聞いてくるので待ってて下さい」
そういうと、秘書室と書かれた部屋に行った。
「お前はどうするつもりなんだ?」
「そりゃ娘を取り返しに行きますよ」
「…………」
「…………」
「……そうか。アイツらも俺のようにやり過ぎたからな」
「反省した時点で違いますよ」
「させられたの間違いさ」
「まぁこれからも程々に頑張って下さいね〜」
「…化け物が」
「褒めても何も出ないですよ?」
「はぁ……」
しばらく時間が経つと「バンッ!」と秘書室の扉が開き、意気揚々と雀が出てきた。
「天瀬さんいい情報仕入れましたよ〜」
「よっ!おやっさん流石!」
「よせやいよせやい!」
「ちなみにおやっさん……おいくらです?」
「フッフッフ、お前とわしの仲だ。これだけさ」
悪巧みするように指を3つ挙げた。
「さっすがおやっさん一生ついていきやす!」
「「はっはっはっは!!」」
「……はぁ」
ひと通り戯れた後、情報料を渡して仕入れた情報を天瀬は影の人に送った。
「それじゃあお元気で」
そう言って天瀬が去った。
「全く以前なら赤字も赤字ですよ」
「アイツ相手に金を取るつもりか?」
「ははは!そんな馬鹿なことする奴まだ居るんですか?情報屋は割と真っ当な職業だから金を渡したんですよ。あの方は。私たちみたいな者にあの方が一つでも利益になることするわけないじゃないですか」
笑いながら話す彼女の目は蕩けて、顔も仄かに火照っている。
「狂信者が……、おい!盛るならさっさと帰れ!」
「あれ?失敬、ついつい。今日は帰らせて貰いますね?」
男装していても醸し出される妖艶な姿はどんな男女も虜にされる。しかし、皿目は冷ややかな目で去った女を見ていた。
「床ぐらい掃除しろよ……」
ため息を吐きながら渋々彼は床の掃除を始めた。
「二度目のイタリー、もはやアナザースカイと呼んでもいいのでは?」
「流石にそれは気が早いだろ……」
「影さんノリ悪いよ!」
「コイツ焦りとか無いのか……?」
天瀬と最初に監視に就いた影がイタリアのローマに降り立っていた。シーズンからは外れ、観光客の姿は少なく地元の住民の姿が大半だ。それも目的地に近づくにつれて減っていく。
「それにしても、天瀬様はよく我々と同じ情報を持っていましたね」
「古いツテがあったんですよ、旦那」
お前まだ二十歳だろ?というツッコミが湧いた影の男は面倒になって何も言わなかった。
「『火星』からの予言で、時間があまり無いと言われています。天瀬様に戦闘を強いることはありませんが、念のため用心してください」
「了解」
「『火星』は既に目的地で作戦を実行しています。天瀬様はミケ様のメンタルケアが仕事ですので、戦闘は作戦メンバーにお任せください」
そうミケの保護自体は『火星』のファルスファリアさんがやるらしい。
(彼女について調べてみたら世界の重鎮が信頼する凄い人らしい。殆ど都市伝説的な存在としてネットでは扱われていた。「世界の重鎮が唯一信頼する予言者」、「世界を守る為に暗躍してる」などなどいろんな憶測が言われている。
実際に昔から世界を守っている場面を目撃した者もいるらしい。
今回の一件もそうだろう。一般人からしたら巻き込まないで欲しい)
仮拠点に天瀬と影が着くと、既に戦闘は始まっており、物資の運搬や怪我人が運ばれたり、人が忙しなく行き交っている。
微かに地震の揺れを感じてふと外を見ると、台風、雷、豪雪などの本来ここでは起きない災害が発生している。
「異常気象か?」
「あれは『火星』様だよ」
後ろには足を失って前線に戻れなかったのだろう、松葉杖をついた負傷兵が背後に立っていた。
「あの方は天災を自在に操れる。たかが人の身で敵うわけないさ。だから安心しな坊主」
「そうなんですか」
「そうさ!それにあの美貌は堪らない!是非ともーーーグゲェッ!?」
「すみません。うちのバカが失礼しました。おい!そんな元気あるなら前線に送るぞ!」
用事があって少し離れていた影の男が負傷兵を医療ベットに放り込んだ。
恐らく深く考えない常習犯なんだろう、手慣れた様子で説教を聞いている。
殆どの人が忙しそうで邪魔できないし、ミケの救助も『火星』とかいう世界最高峰の狩人が参加して心配も少ないし、暇を潰そうとスマホを見ても圏外で使えない………。
「………よし、見に行こう」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と呟きながら前線に隠れながら進む天瀬の姿は、喧騒に紛れて誰にも気付かれなかった。
その後、影の男が基地や周辺を探し回ることになるのはまた別の話ーーー
主人公の戦闘全然なくて申し訳ないです。
もうそろそろ戦闘させようかな……




