太陽
人が死ぬ間際だというのにボケるように話しかけた男は飄々としている。片脇に助け出した少女を抱えて、わざわざ敵の前に姿を現す姿は変人か馬鹿のどちらかだろう。
しかし、純白ノ使徒には別だった。
「?!……『同胞』?何故ここに……?」
「………至上から陰ながら君の支援をするよう神命を承ったのだ」
「なるほど、至上からの天啓がなかったのはそういう事でしたか」
絶対に嘘だと分かるはずなのに純白ノ使徒は納得してしまった。
「しかし、何故神子を抱えているのですか?しかも元の姿に戻っていますが」
「ん〜、君とは考えが違うようだ。私は至上が降臨なさる御身体に、我々如きが手を施すのは失礼と考えている。我々が何もせずとも至上が降臨なさり、御心のままに扱える様にそのままが一番良いと考えている。君はどうかな?」
「………それは盲点でした。至上がこうすることを望むだろうと不敬にも御心を理解した気でおりました。私如きが至上の御心を理解出来ようはずもありませんでした。我々がすべき事は至上の御心のままに出来る環境を作ることでした。同胞よ感謝します」
それっぽく言った嘘がアッサリと通じて男も驚いた顔をしたがすぐに「誰にでも間違いはある」と偉そうに頷いた。
「しかし、よく見れば貴方は何故白ではないのですか?」
「…………」
「白で無いことは禁忌であるはず。何か理由があるのですか?」
どうしようと話の最中に落とされたファルスファリアに視線を向けたが気絶をしていた。
(使えな!)
命懸けで戦った者に失礼過ぎる考えを男はこと、天瀬は考えていた。黙秘を続けたが相手も静かに答えを待ち続け、五分以上たった。
「………知るか!」
ついに痺れを切らした天瀬は問答無用で使徒をぶん殴った。
「?!、一体何をするのですか?!」
「知るか!なんだ同胞とか、勘違いしやがって合わせる身になれよ!」
「……同胞、ではない?」
「どこが同胞だと?」
「しかし……、気配は完全に同じ?」
「あっ」
実は純白ノ使徒が勘違いしたのは天瀬がスキル『領域支配』を応用して、この場に広がる『白』と同化していたせいだった。
「同胞では無いなら遠慮はいりませんね。『純白の衣』」
そう言って白に染まった装甲を纏った使徒は一瞬で近づくと手を薙ぎ払った。
「あぶね!」
背後に回り込んで避けた天瀬が先程いた場所を見ると、白い家具は吹き飛ばされ、床も抉れていた。
「凶暴過ぎるでしょ」
風圧だけで作り出された光景は人が敵うものではない。
「大人しく諦め」
「『領域支配』」
「!」
使徒の目の前で起きた時空の歪みは、元の形に戻ろうとして強力な引力が発生した。
「『白ノ世界』……な!」
歪みがと白で侵食しようとしたが、何故か強い抵抗でゆっくりとしか侵食出来なかった。
「何故、突然このような途方もない現象が?ー
引力に耐えながらゆっくりと世界を広げている中、視界の端に先程戦ったファルスファリアのそばにいる天瀬の姿を見つけた。
「お〜い、起きろ〜。人を巻き込んでおいて何寝てるんだ〜」
彼女の頬を往復ビンタして起こそうとしている姿はシュールに見える。どさくさに紛れてセクハラも交える姿は違和感しか感じない。
「………何故、あの者はこの影響を受けていない?」
「あ〜、起きそうにないな。ミケも寝たままだし」
やっと突然発生した異常現象を抑え込んだ使徒は、恐らくこれを生み出したであろう天瀬に向けて歩み出した。
メニューを選ぶように背中を向けて悩む姿は使徒を眼中にも収めていない。いや、最初からそうだった。竜と戦った時、最高位の魔物である獣人から逃げた時。そして、それすら上回る純白ノ使徒と会ったときも。
「貴方は何者ですか?」
「ただの人、ですよ?」
この世界で上位に入る『九つの星』の一人たるファルスファリアを相手にした時でさえ、余裕を見せた使徒は普通を名乗る一人の人間に警戒していた。
不気味な男に使徒は無意識の内に白の雫を流していた。
「まぁ、誰も見ていないならいっか」
そう言って使徒が天瀬の顔を見た時、その目は畏怖を感じさせる白と黒が漂っていた。
「『神域支配』」
「させない!」
なんらかのスキルを発動した天瀬に瞬きさえ許さない本気の攻撃をした。使徒がいつの間にか握っていた純白の剣の先は地平線の向こうまで伸びた残撃があった。
「すげ〜、地平線まで続いてるじゃん」
背後に残っていた長椅子に、ミケとファルスファリアを座らせてのんびりこちらを見ている天瀬がいた。
「……貴方はこの世界の障害たり得る」
「いや、そんなこと言われても困るけど……。私はただ今日も無難に生きたいだけなんだけどね。そんな事より今日の晩ご飯をーーー」
「関係ありませんーーー」
そう言って白の球体が無数に天瀬達を囲んだ。その球が白い長椅子に触れると抵抗なく穴が開き、空間が切り取られたように見える。
「ーーー至上の為にs」
「ーーー今日は回らない寿司でも食べに行こうか」
教会はいつの間にか温かみと静寂に包まれていた。白い球体は消えて、崩れた場所から夕暮れが綺麗に見える。
天瀬は寝ている二人を背負って今日の晩ご飯の店を何処にするか呟きながら出ていった。
残った教会内、そこには一つの長椅子と首の無い白い彫像がポツンと佇んでいた。
「みゅ?」
「お、ミケおはよう」
「お、はよう?」
ミケが目を覚ますとタクシーの中にいた。
「ここは……?」
「何言っているんだ?タクシーの中だよ」
「………?」
「疲れて寝てたんだよ。今は回らない寿司を食べに行く途中だよ」
「何か、色々あった気がする……」
「夢じゃないか?」
「夢……」
不思議そうな顔をしていたミケだが、本人もよく思い出す事も出来ず夢だと納得した。
「ミケは何食べるか考えてるか?私はハマチを最初に食べようと思ってる」
「わたしはイクラ食べる」
「お、いいね。二貫目はそれにしよう」
「わたしもニ貫目はハマチにする」
「他はーーー」
仲良く何食べるか話す姿をタクシーの運転手はルームミラー越しにそれを見た。本当の家族にしか見えない姿に占い師のような服に身を包んだ運転手は微笑んだ。




