ローマで休日を(1)
アメリカの立ち入り禁止区にて、各国の首脳が集まる会議がされていた。森の中にある建物は航空写真からでも目立たないように最新の魔道科学の叡智を集めた隠蔽が施されている。
周辺の森には第二級と国所属の第一級狩人による、合同の警備体制が張り巡らされて、近付くものは例外なく即排除が厳命された危険地帯となっている。
十五カ国の椅子が円形に配置されている内部には、大半の理事国の首相が着席している。
「さて、それでは会議を始めましょう」
進行役を買って出たのは開催国であるアメリカだった。
「本日の招集は世界各地の獣人の活性化が理由となっています」
事前に知らされていた代表達ではあるが、どよめきが起きた。
「噂の可能性も期待していたが、本当の事とは………」
「甚大な被害を受けている発展途上国も幾多かあるとか」
「厄介な存在が動き始めたな……」
獣人の歴史と脅威を就任時に引き継いだ彼等は、国防の為に何をしようかと思考を巡らせていた。どよめきが収まってきた頃、アメリカ大統領は整理された情報をもとに情報を開示した。
「調査した結果、アフリカ地域での活発な活動が分った。どうやら、国家戦力に第一級狩人が居ない国を集中的に狙っているようだ」
「彼らは侵略の拠点を構えるつもりでは?」
「可能性としては十分ある。偵察に赴いた者によれば既に人を奴隷とした体制を作り上げているそうだ」
「奴隷………」
既に廃れた奴隷制度の再誕に眉を歪める者も少なくない。獣人との長い戦争の記録ではそう言った事例も多く記載されている。
「今までひっそりと生活していた彼らが、何故今になって活動を始めたのか情報はありますか?」
イギリスの首相がアメリカの大統領に質問した。
「性格な情報は入手できていない。しかし、こちらの予想によれば母数の増加、または魔王が生まれた可能性を予想している」
「かつての天災がまた……」
「あくまでも予想に過ぎない事を考慮して欲しい」
その後も主題である獣人対策の話し合いが続いた。結論としては国家間の情報の密接な共有、アフリカへの侵略への狩人派遣などが決まった。勿論、貴重な戦力を国から出さない為の攻防で二時間近く長引いたのはあくまでも自国が最優先である事の表れだろう。
凡そ一日掛けて会議は続いた。監視者の存在に気付かないままーーー
「それでどうにか逃げてきたと?」
「はい」
折角逃げたと思ったら、今度は狩人組合に捕まってしまった。前回の突発ダンジョンみたいに逃げたかったが、今回は負傷者に加えて最前線の崩壊の重要な情報を伝えられるのが私しかいないとあり、仕方なく報告しに来た。
「坂目さんにも事情の擦り合わせを後でするので、暫く滞在をお願いします」
「食事って無料ですか?」
「え?あ、はい。組合の食堂で先程渡された特別参考人の証を見せれば、無料で食べれますよ」
「ありがとうございます、では。」
お昼も邪魔されて食べれてないからお腹すいた……。そういえば、真坂さん起きたとか聞いたな。見舞い行った方がいいんだろうか?でも、そこまで親しくもないし興味もないからなぁ。流石に坂目さんには合わないといけないけど。
依頼主ですし。
今後の予定を何となく考えながら、食堂で期間限定と書かれた『トルコライス』と大人気!と書いてある『爆弾ハンバーグ』を頼んでみた。
トルコライスは普通の値段、千円超えるかな?くらいの値段だったけど、爆弾ハンバーグの値段はなんと五千円!これが大人気とか金持ちかよ。
トルコライスを食べた後に、まだ熱々な爆弾ハンバーグに箸を入れると小籠包のようにスープが溢れてきた。まずはそのまま食べると濃厚な旨みと微かな辛みが口の中を暴れ回る。
溢れたスープにつけてみると、色んなハーブを調合しているのか味だけでなく香り、鼻に抜ける仄かな風味もあり癖になる。柚子胡椒や塩、レモンなどの味変ようの調味料もあり、飽きずに食べれる。
「………ご飯貰ってこよう」
各地の組合にメニューとしてあると聞いた。たまに食べに行こう。
ふとカレンダーを見ると、来週は三連休があることに気付いた。なんだかんだ、大学二年のたった数ヶ月で色々巻き込まれてるな……。
「イタリア行こう」
仕事では何度か海外は行ったけど、観光はこの世界では初めてだ。
「予定が決まったら後は計画を立てるのみ。三日で楽しむには場所や時間は限られるから………」
途中で坂目さんが目覚めたと報告を受けたが、彼女に対する調査が終わるまでは時間がある。
「ジェラートは外せないな」
数時間後。
坂目さんの取り調べが終わる時間までに色んな予約を済ませる事ができた。飛行機代が一番高い!愚痴と貯金と比較しながら坂目さんがいる部屋に向かう事にした。
到着すると果物を口沢山に含んでいる彼女を見た。
「ふ、ふがふが」
「慌てなくていいですよ。お腹空いてるでしょう」
「…………ふぅ、治療に体力を持っていかれまして」
「組合の食堂オススメですよ」
「後で行く事にします」
利用した事があるのか、「あれにしようかな……、いや、ーーーもあり」とか独り言を始めた。ちょっとした思い出話しついでに体調に聞いてみたら、精密調査を受けてから退院するそうだ。
「ーーー田中さんにはお世話になりました」
そう言って頭を下げられて、「それはそう」。と言いそうになったけれど、ただの狩人が予測出来るわけない。結果論で彼女を責めるのもねちっこいか。
「そんな事ないよ〜」
深み笑いで許してやろう。
「はははは、すみません」
「まぁいいさ。それより、群馬は今後どうなるのかな」
前線が崩れた今、早急な守りが必要となっている。既に国の方に情報は行っていると思うけど、どれだけ熱心にやるのか国民としては気になる。
「師匠や大手ギルドへの依頼をするでしょうね」
「無難だね」
軍は常に仕事があり、他の防衛で殆ど動かせない。動かせる部隊も犠牲が出る可能性が限りなく高い今では動かす方が課題が大きい。それに比較して、資金だけ渡せば請け負ってくれる狩人に依頼するのが無難。
個人の戦力が高い第一級を雇えば損失は少なく抑えられる。
「他国よりも日本だと狩人への依頼が多いですから」
「それでいいのか日本」
ギルドが裏から日本を牛耳るとか将来的にはあるのだろうか……。
「そういえば師匠って?」
「『地球』傘元碧です」
「うわぁ」
とんでもないビッグネームが飛び出した。
「日本最強の弟子かぁ」
「まだ、第一級にも成れていないですから、まだ肩書きだけですね」
既に第一級の魔物を倒している時点で時間の問題。最近、第一級複数人で対応する魔物に対戦して生還しているだけで超人だわ。
「まぁ………次の群馬奪還で無理やり倒せとか言われそうですけどね」
「スパルタ指導者……」
「ですので頑張っていきましょうね?」
「いや、行かないですよ」
まるで不思議な者見たような顔されても行くわけないだろ。何故当然のようにまた連れて行こうとしてるんだコイツ。
「階級的にもあり得ないですよ」
「足代わりに……」
「いや、秘密ですよ!?」
「わかってます。今は諦めておきます。田中さんを守る実力に足りていませんし。約束は約束ですからね」
そう言って微笑んだ彼女と何度か言葉を交わした後に別れた。




