零れ火
相手の突進を半身で避けると、後ろに生えていた木が吹き飛んだ。
「やば……?!」
木って、あんなに吹き飛ぶのか……。目測50メートル以上木を飛ばす突進、人が当たったらミンチになるぞ。
鎧の獣人はまるで感触を確かめるように停止していたが、こちらを向くと同時に突進した。
二度目もギリギリを避けたが、外れた瞬間に切り返しをして狙いを定めてきた。咄嗟に転がるように離れたが、再び切り返しで突進してきた。
縦横無尽にでんぐり返しをして、やっと相手が止まり立ち上がることができた。全身土まみれで不快感が凄い。
「悪質タックルかよ……」
倒れている二人は無事の様子。相手は完全にこちらだけを狙っている。
「逃げ回るだけか?」
挑発してくるが、わざわざ乗る馬鹿は居ない。ふと、成林の顔が浮かんだが今は関係ないや。
腰に携えている刀を無意識に撫でたが、あの鎧の強度を破れるか分からない。
あの鎧が衝撃だけ強いなら使えるが、斬撃にも耐性がないとは考えにくいけど……。刀をくれた道場のおじさんは「この刀に斬れぬものなし」とか言ってたけど、無名道場の名刀!とか信用しにくいわ。けど、
「試してみるか………」
抜刀術もカッコいいが、試し斬りでそんな技すれば相手の方が硬い時は折れる。渋々、刀を抜いて構える。刀を水平に構えて相手を撫で斬ることだけを考える。賭けで高い武器を壊すのは嫌だが、こんな時に命を落としたら意味ないし仕方ない。
舐めているのか、それとも体力戦にしようとしてるのか定かではないが、相手は変わりなく突進をしてきた。ただ、こちらの武器に警戒して緩急をつけた始めたが、問題なし。
「フッ!」
集中、相手に合わせて刀をできる限り直角で滑らせた。
「うお!」
しかし、掠っただけでとんでもない衝撃が刀を伝播した。手が軽く痺れたが鎧の脇に傷をつけた。けれど、すぐに傷は塞がった。自動修復機能があるとか聞いてないぞ。
「この刀そこまで切れ味良くないじゃん……」
「『石弾』」
視覚を制限するような一斉発射を止めると、突き破るように突撃してきた。予想していたより回避し過ぎて、首を狙って斬ったが擦り傷程度しかつけられなかった。
関節も狙ってみたが、どれも斬り込みを深く入れれないほど丈夫さと柔軟性があった。連続で斬りつければ切断出来そうだけど、あの速さで逃げられたらどうしようもない。
…………こうなったら奥の手使っちゃえ。こんな緊張状態長引いたら禿げちまう。もう一度突っ込んできたのでタイミングよく落とし穴に嵌めた。
「あとは埋めれば完璧」
数十メートルの深さに蓋をすれば十分でしょう。
「これぞ直通埋葬」
結構な騒音を立てたから急いで離れよう。他の敵も来るとか面倒くさい。
小走りで倒れている2人の元へ駆け寄ると、初期微動のような揺れがどんどん大きくなっていく。
「やばいやばいやばいやばい、急げ急げ」
絶対落としたアイツだろ。時間は稼げてる様子だし急いで逃げる!一応、2人の目を隠して群馬からギリギリ外れた場所へと転移した。
〈別視点〉
厄介な事に深くまで埋められてしまったが、一分も経過せずに脱出できた。
「逃げられたか」
周囲を臭いや音、気配を探ってみたが既に知覚範囲から離れられた。恐らくもうこの森には居ないだろう。
纏っていた鎧を解除して、ついでに戦闘の音で近づいて来た雑魚どもの頭をくり抜いておく。わざわざ相手するのも鬱陶しい。
「まさか、弱いと思っていた奴に一番手間を掛けられるとは………」
長は一人逃した所で気にする方ではないが、念の為回収しに来たら侮辱を受けるとは考えもしなかった。
「田中、か」
あの性格だ。もうこの森に来ることはないだろう。たが、
「次は本気で相手にしてやる」
思わぬ二つ目の目標を得た所で部下から報告役が来た。
「サハル隊長、全ての基地の制圧を完了しました」
「随分と早いな」
「長が張り切りまして……」
「一番強いとはいえ、万が一自身が倒されたらこちら側は混乱するというのに」
「倒されることを想像されてないだけですよ」
「はぁ」
長の強さに盲目的な信用をする、この地の獣人達に何を言っても変わらない。確かに強いのはそうだが、先程のように予想外の反撃を受ける可能性は、長にも存在している。
「これから侵略を開始する前に是非とも改善して欲しいものだ」
二人の獣人は風が通り過ぎたように居なくなった。後には薄暗くなってきた森の姿だけがあった。




