表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

九 幸せに

 あれから一晩考えてた。

 この仮契約がおわったらどうなるのか。

 命運をともにするって言ってた本契約。それを結ぶとどうなるのか。

 次、椿に呼ばれて。いつものように甘いものを食べてる時に聞いてみようと思う。

 本契約がどういうものかはわかんねぇけど。

 もし、俺でもいいなら。

 椿が俺でいいと言ってくれるなら。

 その時は、と思ってる。

 もちろん、それで俺の想いが叶うわけじゃないってことはわかってるけど。

 それでも今の俺がやりたいことは、今まで通り椿の傍にいること。

 椿が言う『懸命に』とはまた違うかもしれないし。

 本当に俺が考えなきゃなんないこの先とはまた違うけど。

 それでも、これだけは決めた。

 俺はまだ、椿と一緒にいたいんだ。




 椿に呼ばれたのは次の日だった。

 いつも通り鈴の音がして。行くぞと手を差し出される。

 その手を取りながら、俺も密かに決意を固めた。

 仮契約と本契約のこと。

 今日こそ椿に聞かないとな。

 そんな俺の決意なんか気付いた様子もなく。到着した先で椿はいつものように歌い始める。

 りん、と空に昇って広がる音。

 集まってきた丸い光の球に触れては、砕けた欠片を取り込んで。足元に集まった人形(ひとがた)は、たんぽぽが一列に並ばせてる。

 いつも通りの変わらぬ様子。

 光の球が全部なくなって。椿の歌の残響が最後に辺りを震わせて消える。

 今日はこれでおわりだな、と。そう思った時だった。




 息を吸い込む様子すら見せず、椿がまた歌い出した。

 椿?

 歌ってる間は声を出すなと言われてるから、呼ぼうとした名は呑み込んで。

 今まで歌が途切れることなんて一度もなかった。いや、そもそも光の球は全部取り込んでるのにどうして。

 驚く俺を見る椿がふっと微笑んだ。

 椿らしくない、どこか寂しそうなその顔に。

 言いようのない不安が込み上げる。

 ――今日、なのか?

 今日が最後なのか?

 今度こそ名を呼ぼうとして、声が出ないことに気付く。

 椿はまっすぐ俺を見て歌いながら、髪に挿す椿の花を手に取った。

 椿の手元へと浮かんできたたんぽぽが、その花を両腕で抱える。ぽぅ、と少し光って。花を椿の手に返したたんぽぽは明らかに小さくなってて。

 待て。さっきから何してるんだよ?

 声が出ないどころか動けない。

 ふたりとも、何してるんだよ!

 椿が一歩近付いて俺の前に立った。

 俺を見つめるその瞳に確信する。

 仮契約は今日でおわり。

 そして、ふたりと会えるのも今日が最後なんだってことを。




 椿は動けない俺の両手を取って花を載せた。そのまま押しやるように、俺の胸元へと近付ける。

 身体に触れた瞬間ぱっと光って、椿の花は消えた。


〈ありがとう〉


 突然頭に響いた言葉は椿の声で。

 でも椿は俺を見たまま歌ってて。

 いつも通り、耳からはなんて歌ってるのかわからない音が聴こえてくるのに。


〈世話になったな〉


 頭に響く声は、その歌詞なんだとわかる。


〈響のお陰で楽しかった〉


 椿の歌。

 俺に向けて歌ってるのか?

 呆然とする俺に応えるように、椿がその手で俺の両手を纏めてぎゅっと包み込む。


〈知らぬこともたくさん知れた〉


 食いもんのこと言ってるなら、まだ食べたいって言ってたの残ってるよな?

 今から夏だし、かき氷とかも食ってみたいって言ってただろ? だったら――。


〈本当にありがとう〉


 俺の考えてることは伝わらないのか、聞こえてるけど応えないのかわからないけど。

 聞くつもりがないってことだけは、わかって。


〈あの日のようにまた迷う日もあるだろう〉


 でも俺の方に来たたんぽぽは腕に必死にしがみついてるし。


〈それでも焦らずゆっくりでいい〉


 椿だって、ずっと何かを(こら)えてる顔してるよな?


〈響なら大丈夫〉


 ふたりだって俺と一緒なんじゃないのか?

 これで最後になんてしたくないんじゃないのか?

 そう思ってるの俺だけなのか?


〈私が認めた男だからな〉


 少なくとも俺は!!

 俺はまだここにいたいんだよ!

 椿の傍にいたいんだよっ!!

 なのに、なんで――。




 切り替えるようにゆっくりと(まばた)きをして、椿が俺を見る。


〈主様から加護を預かってきた〉


 椿。

 俺は今日、俺でもいいかって聞くつもりだったんだ。

 一緒にいたいって言うつもりだったんだ。


〈これからも響が幸せであるように〉


 こんな一方的に。

 俺の言葉、一言も聞かずにおわりにするつもりなのか?


〈たんぽぽも私も祈っておる〉


 椿、頼むから。頼むから俺にも話させてくれ。

 俺はまだ椿に何も言えてないんだ。


〈響〉


 俺は椿が好きなんだって。

 椿のことが好きなんだって。

 俺はまだ椿に伝えてないんだ。


〈幸せに〉


 微笑む椿の頬に涙はなかったけど。

 胸が苦しくなるくらい、寂しそうな顔をしてた。




 椿の歌が空に消えた。

 その手が俺の手から離れた瞬間。

 ふっと辺りが暗くなった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 たんぽぽ主役の番外編と、その時の響と椿の様子です。
『ただいまの場所 』
『おかえりと迎えるために』
小池ともかの作品
新着更新順
ポイントが高い順
バナー作
コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点]  始まりがあれば終わりは必然ですが、なんとも寂しいですね。人と人に非ざる存在なら、時の流れも違うので致し方ないかもしれませんが、響は白昼夢のようなものと割り切れるものでしょうか。 [気にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ