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ただいまの場所

作者: 小池ともか
掲載日:2024/07/01

 並ぶお(うち)の間にある、小さいけれど立派な鳥居。

 そこから細い道をずっと行くと小さなお(やしろ)がある。

 ここには神様と、神様の使いのねぇさまとわたしがいるところ。

 みんなを見守る神様のお手伝いをするのが、ねぇさまとわたしのお役目なの。




 鳥居の上にはぴかぴかに晴れた青い空。 

 御神木の緑の葉っぱもお日様を浴びてつやつやしてる。

 うん、今日もいい天気!

 毎日境内を見て回るのが、今のわたしのお役目。

 わたしは使いになったばかりの『みならい』だから、まだまだ覚えないといけないことがいっぱい。

 いろんなことを見て知って。

 そうして思ったり考えたりすることが今のわたしに一番大切なことだって、そう言われてる。

 今日はねぇさまは神社の外に行ってしまったから、わたしひとりで見て回るの。

 お社は今日もぴんっと張った神様の力に満ちていて、綻びなんてひとつもない。

 お社をくるりとひとまわりして。

 両側にお家の塀が並ぶ細い参道を鳥居までゆっくり歩いていく途中。

 どこからか、みゃあ、と弱々しい声が聞こえた。

 みゃあ?

 キョロキョロ見回しても誰もいないけど、やっぱり声は聞こえてくる。


「どこ?」


 小さな声を聞き逃さないように耳を澄ませて、脅かさないようにゆっくり探す。

 耳からはみゃあみゃあ聞こえる鳴き声は、お母さんって呼んでる泣き声。

 参道のはしっこの茂みにうずくまって泣いてたのはちっちゃな子猫だった。

 白い身体にところどころ茶色の模様。わたしの両手で包み込めるくらいの大きさしかない、まだおちびちゃん。


「どうしたの?」


 声をかけるとおちびちゃんはびっくりして私を見てから、お母さんがいないの、とますます泣き出しちゃった。


「な、泣かないで」


 慌てて抱き上げて、ずっと昔にしてもらったみたいに、ゆっくり頭から背中までを何度も撫でた。

 優しく撫でられていると落ち着くよね。

 おちびちゃんも少し落ち着いてくれたみたい。いつの間にか泣きやんでわたしを見上げてた。



挿絵(By みてみん)

イラスト作 コロン様

https://mypage.syosetu.com/2124503/




 いつもはお家の中にいるおちびちゃん、今日はお庭からお外に出てきて。追いかけてきたお母さんとお家に帰る途中だったんだけど、初めてのお外が嬉しくってあれこれ見ているうちにお母さんを見失って。捜して歩いてるうちにここに着いたんだけど、もう疲れて動けなくなっちゃったんだって。

 思い出したのか、またお母さんを呼んで泣き出しちゃったおちびちゃん。

 大丈夫だからって慰めながら、わたしはお社を振り返る。

 お社からここまでの一本道にも、お社の周りにも、誰もいなかった。

 きっとこの子のお母さんは外にいるんだよね。

 どうしよう……。

 不安そうに見上げるおちびちゃん。

 わたしはまだみならいだから、ひとりで神社の外に出ちゃいけないって言われてる。

 ねぇさまは今ここにいないから、一緒に行ってもらうこともできない。

 でも外に出ないとこの子のお母さんは捜せない。

 ねぇさまが帰ってくるまでの間にこの子が誰かに見つかったら、保護はしてもらえるかもしれない。でも人にこの子の言葉はわからないから、お母さんのところには帰れないかもしれない。

 この子の言葉がわかるわたしがお母さんを捜すのが一番いいよね。

 神様に、捜しに行かせてくださいってお願いしてみようって、そう思った瞬間。黒い着物だったわたしの服が黒いワンピースに変わった。

 ここは境内だから、神様は何があったかもわたしが何を考えたかもわかってて。気をつけて行っておいでって言って、わたしを人から見えるようにしてくれた。




 おちびちゃんを抱きかかえて、そろりと鳥居をくぐった。

 鳥居の外側は、境内の澄んだ空気とは違っていろんなものが混ざってる。

 生まれつき敏感な子だけじゃなく、おちびちゃんみたいに不安になってる子や、昔のわたしみたいに体を失ってしまった子は、そのいろんなものを取り込みやすい。

 もちろんいいものばかりじゃないけど、今はわたしがいるから大丈夫。

 みならいだけど、わたしだって神様の使いなんだからね。

 心配ないよっておちびちゃんの頭を撫でてから歩き出す。

 おちびちゃんは来た道を覚えてなくて。でもこんなにおちびちゃんなんだし、お家はそこまで遠くないと思うから。神社を真ん中に、ぐるぐる円を描くみたいに町を回っていくことにした。

 お母さんは白い毛に鈴のついた赤い首輪をしてて、お家にはきょうだいたちがいるんだって。

 さっきまで泣いてたおちびちゃん、今はすっかり泣きやんで。珍しそうに町を見回してる。

 ねぇさまと一緒に町に出た時、わたしもそんなだったから。よくわかるよ。

 どうして道のはしっこを歩かないといけないのか。信号の色の意味。曲がり角ではどうすればいいのか。

 人から見える時はちゃんと人と同じように気をつけないといけないって。ねぇさまに教えてもらったことを、おちびちゃんにも話しながら。

 生け垣の隙間からお庭の様子を覗いたり、お家を見上げたりしながら、おちびちゃんの家を捜す。

 見覚えのあるところがあったら教えてねって言ってはいるけど、ずっと家の中にいたおちびちゃんにはお家の外観もわからないみたいで。

 そのうち、どこも一緒に見えるって泣き出しちゃった。




 泣かないでって背中を撫でるけど、すっかり悲しくなっちゃったおちびちゃんには聞こえてないみたい。お母さんを呼ぶ声には、悲しいと寂しいとが溢れてて。

 わたしはおちびちゃんを隠すように抱きしめる。

 物陰の暗がりが濃くなってるような。

 少し温度が下がったような。

 おちびちゃんの諦めの気持ちに引っ張られて集まってきてる『それ』を取り込んでしまうと、いろんなことをつらく感じてしまって。そのうち『それ』に取って代わられてしまうから。

 泣いてるおちびちゃんに顔を寄せて、はっきりと、よく聞こえるように声をかける。


「大丈夫。絶対にお家に帰れるからね」


 おちびちゃんにそう言い切って、励ますように背中を撫でる。

 言葉には力があるんだって、ねぇさまがいつも言ってる。

 だからわたしは「絶対」って強い言葉をわざと使った。

 ぴくんとおちびちゃんの身体が揺れて。ゆっくりわたしを見上げる。

 不安そうな瞳の向こう、「そうだったらいいな」が「そうだよね」に変わるまで。何度だって大丈夫って言うよ。

 わたしは神様の使い。わたしの前で、この子に『それ』を取り込ませたりなんかしないんだからね!




 なんとか落ち着いてくれたおちびちゃん。わたしを見上げる顔にもう諦めは見えないから、本当に大丈夫だね。

 泣いてごめんねって謝ってくれるおちびちゃんの頭を撫でてから、大事なことをもうひとつ伝えておく。


「何かあったら助けてって言うんだよ」


 神様だっていつでも何でも見えてるわけじゃないから。

 ちゃんと気持ちを言葉にすることは、とっても大切なことなんだよ。

 おちびちゃんの声が聞こえたら、まだみならいだけど、わたしも助けに行くからね!

 おちびちゃんはよくわからないって顔でわたしを見上げてたけど、そうするねって頷いてくれた。

 それからまた捜し始める。

 おちびちゃんもお母さんを呼んだり、お庭に向けてきょうだいたちに呼びかけたりしてくれたんだけど、見つからなくて。

 それでももう、おちびちゃんは諦めたりしなかった。

 絶対帰れるって。わたしの言葉を信じてくれてる。

 信じてくれるおちびちゃん。その気持ちがまたわたしの力になって。いつもより多く神様の力の影響を受けられるようになってるのか、感覚が鋭くなってるのがわかる。

 それから暫く歩くうちに、りりん、と鈴の音が聞こえた。

 もしかしてと思って、音の聞こえた方に向かう。

 そのうちおちびちゃんの耳がピクッと動いて、足をバタバタさせ始める。

 みゃあみゃあ、必死にお母さんを呼んでる。

 鈴の音もだんだん早く近くなってきて、とうとう向こうから駆けてくる白猫さんが見えた。

 車が来てないことを確かめて。バタバタもがくおちびちゃんを放したら、まっすぐに白猫さんに向かっていく。甘えるように頭を擦り寄せていくおちびちゃんに、白猫さんも同じように返してた。

 よかった。お母さんと会えた。

 白猫さんがおちびちゃんに促して、ふたりでわたしにお礼を言ってくれた。

 白猫さんはちゃんと帰るお家もわかってるって言うけど、心配だから送っていくね。

 白猫さんの案内で着いたお家は、神社からは思っていたより離れてた。生け垣の下に隙間があって、おちびちゃんはここから出ちゃったんだって。

 何度もお礼を言ってくれる白猫さんとおちびちゃんに、またねってお別れをして。生け垣をくぐっていくのを見送った。隙間の向こうからはきょうだいたちが嬉しそうにおかえりって迎えてて。おちびちゃんも元気にただいまって応えてる。

 無事に帰れてホントによかった。

 そう思いながら、そっとその場を離れた。





「ありがとうございました。今から戻ります」


 小さな声で神様にそう伝える。

 白猫さんの鈴の音もおちびちゃんの鳴き声も、神様が気付かせてくれたんだよね。

 神社までの道を辿りながら。もしかしたら昔のわたしもあんな風に心配かけたのかなって思って、ちょっと寂しくなったけど。

 でも大丈夫。

 お家とお家の間の細い道には立派な鳥居が建っていて。その参道の先には神様のお社と御神木の椿の木。

 その隣で、にっこり微笑んでくれてるのは。


「おかえり」

「ねぇさま、ただいま!」


 駆け出して飛びついたわたしを受け止めて、ねぇさまが頭を撫でてくれる。

 あの日のわたしが言えなかった「ただいま」を、今は言える場所がある。

 なんだかそれがとっても嬉しかった。



 童話ジャンルにしては、本文も内容も長さもちょっとどうかな……という作品となってしまいましたが、お読みいただきありがとうございます。


 またこちらは『空に昇る音は君に繋がる唄だから』の番外編でもあります。

 ネタバレはない……と思いますので、もしご興味がありましたら本編もお楽しみいただけたら嬉しいです。


 本編はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n9732in/

 ジャンルは恋愛(現実世界)、ねぇさまのお話となります。



 番外編内でのねぇさまの様子はこちらから。

https://ncode.syosetu.com/n5553jf/

 こちらはネタバレありのお話となりますので、本編をお読みでない方はご了承くださいね。

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コロン様
― 新着の感想 ―
[一言] 木山花名美さまの活動報告から参りました。 とてもかわいい語り口調で、ねえさまと私の関係は分からないのに、仔猫と母猫みたいななんだか優しい関係なんだろうなと想像できました。 仔猫、お母さんのと…
[良い点]  神秘的なとても優しいお話ですね。神社の外に出ることが辻神のように見つからないか心配でしたが、無事お母さん猫さんが見つかってよかったです。 [気になる点]  地の文、心の動きがとても丁寧に…
[良い点] 神様の使いのみならいの主人公が、参道で泣く子猫を抱き上げながら、その心と言葉を交わしていくところがとても印象的ですね。 「神様だっていつでも何でも見えてるわけじゃないから」 「ちゃんと気…
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