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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第二章
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第四十二話:走って、


「おーい、ノイズ。遅いじゃないか」


 それぞれの出場競技が決まって三日が経った頃、ノイズを除いた運動会に出場する四人は、休日であるにも関わらず、校門の前に集合していた。


 そんなところになだらかな坂をゆっくりと歩いていく一人の少年がいた。もちろん、それがノイズである。


「そうですよ。ノイズさん。ノイズさんが言ったんじゃないですか。これから運動会までは放課後や休日の時間を使って練習するって」


 ウツイは準備運動をしながら、やってきたノイズに対して、そう言うのだった。ノイズは自分の頭をなでながら、


「ごめんって。ちゃんと逃げずに来たから許してよ」


 と、他の人に対して謝るのだった。そして、四人に混ざって準備運動を始めるのだった。


 各々がどの種目に出るか決まった後、ノイズたちはそれぞれの種目に対して、どのようなアプローチをするのが良いのか話し合った。つまり、ノイズたちはできるだけ楽をしようと考えていたわけである。しかし、たどり着いた結論は基礎体力を向上させるというものであった。


 そして、ノイズたちは放課後や休日の時間を使って、それに取り組んでいるわけである。都合のいいことに、ティーチ先生が学校を開けてくれることになったので、五人はそれを活用している。


 準備運動が終わると、全員で外周を走ることになった。走り始めてから、一周目が過ぎ、二週目に差し掛かり、校舎裏に入ったタイミングで、ケミスはひどい顔をしながら、


「ちょっと待つでやんすよ。こんなの人のやることじゃないでやんすよ」


 と弱音を呟くのだった。ケミスは集団の中でも、後ろの方でヘロヘロになりながら走っていた。その前にノイズとネクロが必死な顔をしながら、前の方にいるドッグとネクロを追いかけていた。


「そう言うなよ、ケミス! 頑張れば世界は変わるんだ! はっはっはっ」

「……ノイズさん。声は笑っているように聞こえますけど、どう考えても余裕なさそうですよ」


 ノイズは隣にいるネクロの方をちらりと見る。ネクロは息遣いが荒く、首筋には汗が滲んでいた。


「そう言ってるネクロも余裕はなさそうだがな」


 ノイズは前を見ながら、強気に発言する。ネクロもちらりと横にいるノイズの方を見る。ノイズはできるだけ平静を保とうとしているのか、口を開けないようにしていた。その代わり、鼻から呼吸する音がはっきりと聞こえてくる。


 ネクロは前を向くと、少し笑いながら、


「ノイズさん。強がらなくてもいいんですよ。辛いときは口を閉じない方が、呼吸できる量も増えますし。逆に閉じている方が危険ですし」

「そんなことは言われなくても分かってる。これは強がってるとかでもなくて、本当に余裕だから閉じてるだけ。ネクロとは次元が違うの」

「そうやって、ひどいですよ。あなたと私と違う点はそんなにないじゃないですか」


 二人は言い合いをしながら、並走していた。お互いに走ることよりも、違うことに重きを置いているようだった。そして、その二人の前を走るドッグの耳に、その話は届いていた。ドッグは少しペースを落として、ウツイの隣までやってきた。


「なぜ、二人は争っているんだ?」


 ドッグは不思議そうな顔をしながら、ウツイに尋ねる。ウツイは少し悩んでいるのか、沈黙したまま走り続けている。ドッグはそんなウツイの方に視線を向けながら、回答を待っていた。


「多分だけど、仲がいいからじゃないかな?」

「なるほど。仲がいいと争うのか」

「別にそういうわけじゃないけどね」


 ウツイがそう返事をすると、ドッグはさらに混乱しているようで、頭をさまざまな角度に傾けて、最終的には目を閉じて、うつむいたまま顔を上げなくなってしまった。


 ウツイも、ドッグがそこまで知りたがっているのが変な気がして、困惑して顔が少しだけ引きつっている。


「そんなに二人のことが気になるの?」


 ウツイは気になってしょうがなくなり、ドッグに質問を投げかける。すると、ドッグはゆっくりと顔を上げ、真顔で、


「まったくもって興味はない」


 と、言い切るのだった。ドッグはその後も話を続ける。


「気になっているのは二人がなぜ喧嘩をしているのかという点で、二人のことを気にしているわけではない」

「……なんだか、難しいね。でも、なんとなく言えることがあるなら、その状態のままなら、二人がああやって言い争ってる理由は見つからないよ」

「それはどういう意味なんだ?」

「……簡単だよ。あれは喧嘩とかじゃないんだよ。一種の馴れ合いみたいなものなんだよ」


 ウツイがそう言うと、ドッグはその言葉を咀嚼することが難しいのか、眉間にシワを寄せている。


「分からんな」


 ドッグはそれだけ呟くと、そのまま速度を元に戻して、ウツイの先を走っていくのであった。

 

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