第四十三話:休憩中に
「今日はこれくらいで十分だろう」
ドッグは息を乱すこともなく、その場に平然と立ち、しばらくすると、飲み物を飲みに校舎裏から去っていった。ウツイも最初は膝に手をついていたが、ある程度休むと、少しだけ息が乱れているようだったが、他の三人が置いている飲み物を取りに歩き出した。
他の三人は重傷であった。ノイズとネクロは終わったと同時に、校舎裏の硬い地面に寝転がり、完全に動けなくなってしまっていた。ケミスに至っては、他の四人よりも早めに終わらせたにもかかわらず、校舎にもたれかかって、それからずっと動かないでいた。
しばらく経つと、ケミスは死んでしまったかのように、もたれかかったまま動かなくなってしまった。
ネクロとノイズは二人並んで、空を眺めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。ノイズさん。どう考えても、私の勝ちですよね? どう考えても勝ちですよね?」
「どうしたんだよ、ネクロ。いきなり勝ち負けを持ち出すなんて。はぁ、はぁ、はぁ。でも一つだけ言えることがあるなら、僕の勝ちだね。僕の方が賢い走り方をしてた」
「……なるほど。走り方に賢さとかあるんですか?」
ネクロが空を見つめながらノイズにそう尋ねるが、ノイズは肩を震わせながら呼吸を何度も繰り返すばかりで、返事もしないまま、ネクロの隣を寝そべりながら、空を見つめていた。
「……ネクロ。そろそろ諦めるか?」
「えっ? そんなのあるわけないじゃないですか。というか、ノイズさんは田舎の方の出身なんですよね? そんなに体力ないのはおかしいでしょう。手伝いとかしてこなかったんですか?」
「してきたよ。ただ、僕は頭がいいから、どうやれば楽できるかを考え続けてきたから。そんな感じで体力なんて身につくと思うか?」
ノイズがそう聞くと、ネクロは黙ったまま空を見ていた。二人の呼吸はすでに正常に戻っていた。
「ノイズさん。少しだけ、私の話をしてもいいですか?」
ネクロは頭の下で手を組みながら、ノイズの方を見るわけでもなく、晴天を眺めている。ノイズは急なことで、ネクロの方を振り向くが、見てはいけないよう気がして、すぐに空の方を見始める。
「私、実は突然能力を得たとか、そう言うわけじゃなくて、ネクロマンサーの家系に生まれたんです」
「そうなのか。一般的には珍しいことなのか? そのネクロマンサーはネクロマンサーからしか生まれないみたいなことは」
「・・・・・・どうなんでしょうね? 私の周りにはそういう子が珍しかったので、そんなふうに思ってます」
ネクロはどこか寂しげにそう言った。
「それで、私はそういう生まれだから、家族からは期待されていたんです。私、こう見えても、長女なんです。だから、プレッシャーも多い部分があって。どうにかしてそれに応えようと、毎日何度も練習を重ねたんですけど、結局ダメだったんです」
「結局ダメだったって、そんなこと言うなよ。……確かに、ネクロがそういう術を使ったのを見たことないけど、でも使う場面がなかったってだけで、少しくらいなら、死霊とか操れるんじゃないのかよ?」
ネクロがそう尋ねると、ネクロは首を横に振って、
「全然ダメだったよ。何もかもダメだった。少しでも使えたら、希望が見えたんだろうけど、ちっともそういう能力は現れなかったよ。でも、妹や弟は私の力を簡単に乗り越えていって。本当に悔しくて、何度も泣いたけど、その度に立ち上がって、立ち上がって、ついに折れちゃったんだ」
「……それで? それで、ここまで逃げてきたのか?」
「うん。死霊術師としての才能は全くもってなかったけど、魔法使いとしては、まだ道が残されてたんだ。だから、この学校に入ったの」
ネクロはどこか悲しげな顔をしながら、青い空を眺めていた。あの雲は、我々をどのように見ているのだろうか。ノイズは、そんな疑問が湧き上がるが、考えてもしょうがないことをすぐに悟るのだった。
「そうだったのか。僕はそういうのは分からないな。家族から愛されて育ったから。だから、そういうふうな感情が浮かび上がることはなかったなぁ」
「そっか。ノイズは違うんだね。私とは何もかもが違うんだ。そっか」
「……でも、一つだけ言えることがあるなら、ネクロはこのクラスに必要だと思うよ」
ノイズがそう言うと、ネクロは驚いたのか、頭を横に向けて、ノイズの方を見る。ノイズはそれに気づきながらも、未だに何もない空に視線を向け続けいた。
「僕は、このクラスに来て、最初からいろんなことがあって、正直疲れたよ。アンドがいなくなるっていうのが、意外にも寂しかった。あれだけ、アサに酷いことをしたのに、それでもアンドはZクラスの一人であることには変わりなかったんだよ」
「……優しいんですね。私はまだ、そういうふうに受け取れてませんよ。自分のことで精一杯なのに、他人のことなんか気に掛ける余裕はありませんよ」
「だから、ネクロも大事なクラスの一人なんだ。だから、急にいなくなったりとか、そういうのはなしにしよう。それと困ったら、お互い助け合おう。ただ、それだけのことだろ?」
ノイズが優しく語りかけると、隣からすすり泣く声が聞こえ始めるのだった。ノイズは一瞬、状況が分からずに、隣の方をちらりと見ると、目にいっぱいの涙を浮かべながら、こちらの方を見ているネクロの姿があった。
「……泣くの?」
「……だって、優しすぎるんだもん」
そう一言呟くと、ノイズの腕に抱きついて、涙をこすりつけながら、何かをぶつけるように泣き始めるのだった。
「ちょっと、ちょっと待ってくれって。そんな気はなかったんだって。誤解されるから、絶対に誤解を生むことになるから。ちょっと。ちょっと。ねぇ、ちょっと。悪かったって。急に優しくするとか、なんかあれだった? そういうの嫌いなタイプの人だった?」
ノイズは体を起こしながら、ネクロをどうにかしてなだめようとするが、それも叶わず。ネクロはずっと泣き続けるのだった。
「何かあったんですか? ノイズさ……」
飲み物を手に持って帰ってきたウツイは、なぜか誰かの泣き声が聞こえたので、心配になって様子を見に来ていた。そこには、ネクロがノイズに泣きついている姿が存在していた。
「まさか、ノイズさんがネクロさんのことを……」
ウツイは手に持っていた水筒を地面に落としてしまう。床に落ちた音が響き、それはノイズの耳に届く。
ノイズは急いで後ろを振り向くと、そこには顔を青くしながら、口を手で抑えているウツイの姿があった。
「何か勘違いしてるみたいだけど、これは別に何か僕が悪いことをしたとかじゃないんだ。ウツイも分かってくれるだろう?」
「分かってます。ノイズさんが、幼気な女の子をいじめる野蛮人であることは」
「それが勘違いなんだけど、なぁ」
「最低です! ネクロさん今助けますからね!」
ウツイはどこからともなく杖を取り出して、強く握りしめると、ノイズに向かって、その杖を突きつける。
ノイズはどうにかして逃げようとするが、泣き止まないネクロを無理矢理引き剥がすわけにいかず、絶望した様子で、ただそこに座り続けるのだった。




