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浪漫と触手

 ギシギシと身体の内側が軋みを上げる。

 手が……足が…………動かせない。

 どれほど力を込めようと、俺を拘束して全身に絡み付いたコイツを引き剥がすことができず、恐ろしく強力な戒めであるのを実感する。


 目の前には、ティナとの出会いのキッカケとなった小木の魔物(テンタクルプラントという御大層な名前があったらしい)が、床の上で根っこを剥き出しにして直立していらっしゃいます。

 たった数日前に対峙したばかりのコイツであるが、いろいろあったせいでひどく懐かしく感じる。

 その後の経緯も含めると、今では親しみと感謝の念さえ沸き上がるほどだ。


 ただね、そいつから一直線に俺の身体に巻き付いてる物が困り者なんだよなあ。

 ガッチリと締め付けられ、肉体に食い込む四本の蔦。

 ふむ、これがリアル触手拘束……もとい蔦に捉えられた感触という奴か。

 最初に戦ったときは手足だけで済んだが、今は胴体とまとめてぐるぐる巻きの状態だ。

 身体強化魔法の効力はかなり低下しており、俺の肉体は既に普通の人間と大差ない状態だから、力で引きちぎるのも難しいだろう。


 はぁ勘弁してくれ。

 拘束されている美少女を見るのは興奮するが、俺自身が緊縛されて喜ぶような趣味など持ち合わせていない。

 だからそう……たとえほどよい締め付けで、絶妙な痛気持ちよさがあったとしても、それはきっと気のせいに違いない。

 ゾクり、と背筋から沸き上がる未知の感覚に身震いする。




 く、悔しいっ!でも感じ…………るわけあるかああああああああああぁぁちくしょおおおおぉ!!





 まったく、どうしてこうなった?





 事の起こりは単純だ。

 魔物の使役方法を修得するために、失敗してもあまり害のなさそうなテンタクルプラントの魔石を一つ選び、二人に隠れてコッソリ練習しようと思ったのだ。

 理由?

 漢の浪漫を追及するために決まっている。

 目指せポ○モンマスター!

 あっ魔石は小さくて持ち運びは簡単だから、極めれば本当に似たような感じになりそう。

 捕獲は倒せばいいだけなわけだし。


 二人に内緒にした理由は、努力している姿なんて人に見せるものじゃないからだ。

 もしかしたら縛られる感触や具合を確かめているように見えるかもしれないけど、きっと気のせいだよ?


 そんなこんなで最初は軽い気持ちで魔力を注ぎ込むと、具現化は驚くほど簡単に成功だ。

 魔石から魔力の靄が立ち上ぼり、あっという間にテンタクルプラントが生成された。


 ものは試しに蔦を伸ばせと命令してみたら、スルスルとこちらへ向けて伸ばしてくれたので握手してみた。

 うん、蔦の感触としか言えない。

 喋らないし、蔦以外動かせないしで、これだけではよく分からん。

 検証のため今度は()()を取ってこいと命令した。

 二人に建物内を見学してくると言って、そのまま別店舗に隠れて実験していたわけだが、そこら中にあるのは女性向けの服ばかりだ。

 ここから程よい距離にあるのはランジェリーショップか。

 ほほう、ならばやるべきことは一つしかないな。


 さあ、あそこに鎮座するおぱんつを取ってくるのだ!と意気揚々命令を下した。

 すると蔦が勢いよくズルズルと床を這い、四本が別々のおぱんつ達に絡み付いて色々持ってきた。

 まるで俺の好みを狙い撃つかのような見事な品揃えである。


 す、すごいぞコイツ!?



 射程は思っていたより長く、三十メートルといったところか。

 女性二人が穿いていた類似の下着へ若干偏っているようだが、まさか俺の思考を読み取っているというのか?

 なんて優秀な奴なんだ!



 これで有用性はよく分かった。

 あとはこいつの戦闘時における拘束能力を確認するべきだな?

 だが生憎と丁度いい獲物がない。



 そこで閃いた。





 よし、ならばこの身をもって知るべきだ、と。

 敵を知り、己を知れば……こんな場面で使う言葉だっけ?

 まあいいか。




「テンタクルプラントよ、次は俺を縛れ!」





 そう、命令してしまったのだ。







 その結果がコレだよ!






 まさか俺自身さえ知らなかった秘めたる欲望を読み取ったとでも?

 ただ縛れという命令に、俺の思考のみならず嗜好まで読み取って独自にアレンジを加えるとは……将来性は抜群だな。

 しかも恐ろしく的確に、緩急をつけて責め立ててくるんですが、これどうしましょう?





「…………渉君、なに……してるの?」




 身体を這い回る感触に耐えていた俺に背後からの呼び掛け。

 なんてことでしょう!

 秘密の実験が発見されたではありませんか!





「う、うむ、見てのとおりだ」




 何が見てのとおりだよ。

 振り向くと今にも吹き出しそうな由香と、クスクスと既に笑っているティナがいた。



「渉様は……毎回同じ事をされますよね?」


「ぷふっ、ほ、ホントブレないよね~渉君は。インパクトが強すぎて、何度やり直してもこの記憶だけは忘れないもん」



 ついに堪えきれなくなったのか、次の瞬間由香に爆笑された。

 こらそこ!笑うんじゃない!


 だがしかし、毎回やっているのか?

 さすが俺だな。

 ならば次にやることも、当然二人は分かっているはずだ。

 すなわち実験へのご協力に決まっている。



「知っているなら話は早いな。手伝ってくれ。テンタクルプラントよ、二人も縛れ!」



「「いゃあああぁぁ、や、やっぱり~!!」」



 俺を縛っていた四本の内二本がほどけ、制服姿のままの二人にあっという間に絡みつく。

 鎌首をもたげた蔦が柔らかそうな太ももに絡みつき、スカートを捲り上げながら上半身へと迫って、まるで胸元を強調するかのように縛りつけた。


 この触手プロだ。間違いない。

 たった一本で手足の動きを封じつつ、女性の魅力的な身体のラインを浮き立たせる様は、まさしく匠の技と呼ぶべきものである。



「やっ、なにこの動き……んっ、ちょっ……やめ……っ、んっ」


「あっ……そ、そこは駄目です!くっ……あっ……んんっ」



 顔を赤らめ、色っぽい吐息とともに悶える二人。

 徐々にはだけていく制服が非常にけしからん。

 実験は大成功だ。




 だがしかし、このまま続けたら絶対怒られる!




「よし蔦をほどけ!」




 命令すると驚くほどあっさり止めてくれた。

 なんてお利口さんなんでしょう。



「素晴らしい。これなら実戦でも使えそうだな」



 たぶん今の俺はとても爽やかな笑顔を浮かべていることだろう。




「……渉様のえっち!」

「……渉君の変態!」




 荒い息をつきながら乱れた制服を整え、真っ赤な顔をした二人が俺をジトっと見ている。

 この達成感の前には、その視線さえもが心地いい。




 こうして俺は新たな境地に至ったのである。









読んで下さっている皆様、ありがとうございます!


さらっと書いて次のエピソードに行く予定だったんですよ?本当なんです!

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