両手に花と最低な誓い①
現在時刻20:58
テンタクルプラントを再び魔石に戻し、スーツのポケットに収納することにした。
魔力を抜き取ると小さな緑色の魔石に姿が戻るのである。
こいつは今日から俺の心の友にして以心伝心の相棒さ!
愛称はてんたくん(仮)だ。
這い寄る戒めの契約者とか、蠢く触激の支配者なんていうカッコいい名前をつけようとしたら、女性陣には大不評だったせいである。
ちくしょう何故だ!
仕方ない。まだ二体いるから内緒で彼らにこの名を授けることにしよう。
この相棒たちの本体ともいえる魔石であるが、ゲームなんかでよく聞く召喚石とでも言ったほうが近いかもしれない。
石の中には魔物の因子が封じ込められており、魔力を介して肉体を生成することができる。
あくまでも石が本体で、魔力は肉体を具現化するための材料だ。
この点は魔法が現実へ影響を与えるプロセスと本質的に同じと思われる。
しかも魔力というものには所有権、もしくは支配権のようなものがあって、自然に満ちた魔力を魔石が一定量蓄えると、自立型、いわゆる野生動物のように本能に基づく魔物として活動する。
逆に術者が自身の魔力や、自然に満ちた魔力を使用して魔石に注ぎ込むと使役される魔物となる。
なにかと特殊性を示す魔力の操作に関してであるが、これも例のごとくイメージによって行われている。
ぶっちゃけると魔法の発動や魔力の操作は、なんとなくとしか言いようがないために、この世界の魔法の難易度が高いというのも頷ける。
俺の場合は万能たる力の源の存在を感じ、思念による操作でその力をイメージの中に注ぎ込むといった感覚だが、ティナが扱う場合はまた違うらしい。
感じかたは人によって千差万別であり、結局のところ個人が感覚的に体得するものであるせいで、体系化することが非常に困難らしいのだ。
ただ……俺はどうやってこの感覚を獲得したのだろうか?
修行と称してティナから聞いた魔法の知識をもとに、中二病的な発想から最初に使えるようになった魔法『魔弾重力崩壊』がある。
なぜ重力を最初に操ろうとしたのかと言うと、俺の発想がひねくれていたからだ。
目指したのは多くの魔物に対する汎用性で、各種属性攻撃は吸収や威力軽減されそうで嫌だし、超再生能力持ちとかいたらどうしよう……そうだ限界まで圧縮して消滅と言えるレベルまで潰してしまえばいい!
我ながらこんなアホみたいな発想でも、明確にイメージさえできれば魔法として発現できてしまうのだから始末に負えない。
だがこの程度の妄想は中二病時代にいくらでもやったし、わりと本気で魔法を使おうと試行錯誤していた。
その結果なんて言うまでもなく、一人の痛い奴が出現しただけなのだが。
ぎゃああああ!思い出すだけで恥ずかしいいいぃ!!
ただ、魔法修得の修行と黒歴史とでやったことはほぼ同じなのだ。
痛々しいあの頃との違いを挙げるとすれば、やはりダンジョンや魔物が実際に出現したことが原因だろうとは思うのだが、現状は不明のままだ。
ああそうそう、不明といえば今のこの状態もよく分からない。
女性陣が何故か俺の腕を枕にして楽しそうにしている。
ティナは左腕、由香は右腕を占有中だ。
両手に花状態なのですごく嬉しいが、両サイドから二人の腕が俺の身体に巻きつき、むにむにとした柔らかい感触が両サイドから絶えず襲ってくる。
なんたる……なんたる天国か!?
ティナは言うに及ばず、由香も手の平に収まるくらいの程よいものをお持ちのようである。
店舗内にはいくつか寝具を扱っている店があり、ちょっと拝借して三階まで運び今夜の寝床を整えていたのだが、もう少しで作業が終わるというタイミングで二人に押し倒されたのだった。
「お二人とも、これはどういう?」
「さっきの仕返しです」
「てんたくんの真似」
俺を挟んでクスクスと笑い合いながらぎゅっと抱きついて、時折脇をくすぐったり、身体中をツンツンしたりと、やりたい放題である。
あのですね、俺が脆弱な理性しか持ち合わせていないのをちゃんと理解しているのでしょうかこの子達は?
右腕には人懐っこい笑みを浮かべる由香。肩口で切り揃えられた艶やかな黒髪に、制服に身を包んだスレンダーな身体。微かに漂う石鹸の香りが鼻孔をくすぐる。
左腕には幸せそうに微笑むティナ。黄金色に煌めく絹のような肌触りの髪と、同じく制服に身を包んだままの悩ましい肢体。どこか心が安らぐ花のような香りとエルフの反則的な美貌が俺の心を高鳴らせる。
いやこれ我慢とか無理じゃない?
「なるほど、これがティナを虜にした腕枕の感触なんだ。なんか安心するけど、すごいドキドキするね。ティナってばこれを独り占めしてたんだ?」
「えへへ、今日からは二人占めです!」
なにやら俺の意思を無視して話が進んでいるらしい。
照れ臭そうにしてる由香の手を取り、仰向けになった俺の腹の上でティナが嬉しそうに指を絡ませている。
仲がよろしいことで。
「あはは、ティナにはホント敵わないなぁ」
ズルいよ、と小さく呟き、由香が俺の右肩に顔を埋め、痛いほど強くしがみついてきた。
微かに震える身体と、押し殺された嗚咽。
ティナは無言で由香の側に移動し、背中から優しく抱き締めた。
交わる愛人さんの視線に促され、俺もぎこちなく左腕で抱き留める。
今まで気を張っていたのが決壊してしまったのだろう。
建物の周辺を魔物に囲まれながら、ずっと一人で俺達を待っていてくれたのだ。
その上、由香は自分の死ぬ瞬間をはっきりと覚えているそうだ。
平気なわけがない。
先日までただの学生だった女の子が、虚勢を張ってまで笑顔で迎えてくれていたのだ。
未来に起こりうる悲惨な記憶を抱えながら、俺達を信じてここに残ってくれた。
既に愛する女の子がいるのに、別の女の子を支え、救いだしてあげたいと思う俺は、おこがましいのだろうか?
ちくしょう、女の子の涙には弱いんだよなあ……。
ああもう、悩むのはやめだ!
何を隠そう、俺は素敵な女性が大好きだ。
アニメの一クールの度に嫁が増えるし、一番好きな子は?と聞かれても決められないくらい優柔不断だ。
惚れっぽいし、エロいことも大大大好きだ!
そんな俺が今さら何を取り繕えばいいと言うのか?
開き直った最低な男は始末に負えない。
けれどこれだけは約束しよう。
彼女を殺した魔物を、完膚なきまでにぶっ潰してやる!
由香を挟んでティナと目が合うと、すべてお見通しですと言わんばかりに微笑み、小さく頷いてくれた。
俺なんかには勿体無いほど、懐の深い素敵な女の子だ。
討伐は明後日決行する。
魔物の配置や今後起こりうる出来事をコントロールするために、どうしても日時を変えることができないためだ。
まったく、我ながら節操が無さすぎる。
けれどそんな奴でも愛してくれる女の子がいる。
だからこそ、その気持ちに応え、彼女の望む幸せな未来を勝ち取りたいと思うのだ。
故に無職で中二病の最低な男は、素敵な女の子達を救うために、これから何度も戦うことになりそうです。
読んで下さっている皆様、ありがとうございます!
大変ご無沙汰して申し訳ありません。
執筆に絶賛大苦戦中ですが、今後も地道に頑張っていきたいと思います。




