制服
由香は女子校生じゃなかった。
何を言ってるのか分からないと思うが、俺もそうだから安心してくれ。
たとえ紺色を基調としたブレザーを着用し、丈が短めのスカートを穿いて、胸元には校章と思わしきものが縫い付けられていてもJKじゃないらしいよ。
嘘だろオイ!
近くの服屋の事務所に案内され、腰を落ち着けて聞かされた話は俺を驚かせた。
いや、他にも驚くべき話はあったのだが、まずはこっちの件を先に片付けようではないか。
とても重要な話だからね。
「ならば何故制服を着ている?」
「だって渉君、こういう服好きでしょ?」
なんだそれ……否定はしないけども。
おっと、か、勘違いするなよ?
学生に興味があるんじゃなくて、制服が好きなんだ俺は!
ブレザーしかり、セーラー服しかり、女の子の魅力を引き立てるあのデザインを最初に考えた人は天才だと思う。
「さて、ここで問題です。今日は何月何日でしょう?」
「えっと三月十八日だな。それと何の関係が?」
覚えてなかったのでスマホで確認して答えた。
そういや仕事が忙しすぎて、ここ数年日付など気にしたことがなかったな。
ブラックな職場あるあるってやつだ。
日付など業務予定の記号にしか見えなくなってたからな……辞めて正解だよ。
「渉君、三月といえば卒業シーズンでしょ?わたしの学校の卒業式は三月十五日。つまり魔物騒動が始まった日というわけです。ここまで言えば分かるよね?」
「つまり由香はその……今無職なのか?」
俺もだけどね!というのは言わんでおこう。
「どうしてよっ!?まったく、わざと言ってるでしょ渉君?」
腕を組んでジトっと見詰めるその表情は、どことなくティナと似ている気がする。
だって卒業して学生でもなく、働いてもいない状態って他になんと呼べばいいのだ?
そうか!
「すまん、言い方が悪かったな。家事手伝い?」
「へぇ~まだそういうこと言うんだ?これを見てもそんな口が利けるかな?」
おもむろに、由香が事務所のロッカーから丁寧に畳まれた服を取り出した。
気のせいでなければ、由香の制服に似ているような?
「二人を待つ間暇だったから、ティナの身体に合わせて、わたしの予備の制服を仕立て直してみたんだよね。胸元がちょっとキツイかもしれないけど、きっとすごく似合うだろうな~」
なん……だと!?
チラッと流し目でこちらを見て、勝ち誇った表情でふんぞり返る由香。
く、なんて卑怯な奴だ!
「申し訳ありませんでした!由香様!」
けれど俺は素早く土下座した。
たぶん歴代最速の完璧な土下座だったと思う。
そのくらいティナの制服姿が見たいのだから仕方ない。
「ふふん、分かればよろしい」
おのれなんという屈辱か、あとで覚えていろよ?
ティナの制服姿を堪能した暁には、貴様の腕前と心意気を称賛して恥ずかしさに悶えさせてやるからな!
「お二人とも相変わらずですね。あっという間に仲良しです」
「「仲良しじゃない!」」
それまで微笑ながら静かに見守っていたティナの一言に対して、二人のセリフが見事にハモってしまった。
ティナがもう堪えきれないといった表情で、俺達の様子を見てクスクスと笑っている。
恥ずかしいところを見せてしまった気がするが、ティナは楽しそうだし、由香は赤くなってそっぽを向いている。
俺の馬鹿に付き合ってくれるし、気軽に軽口を言い合える雰囲気を持つ由香。
こういう子だから、未来のティナや俺の心が救われたんだろう。
面と向かって言うのは恥ずかしいので、心の中で礼を言っておく。
ありがとう。
それと、ティナのブレザーはよくれ!
現在時刻16:46
ティナが由香に引っ張られ、お着替えのために試着室へと連れ込まれた。
女性向けの広々とした空間で、カーテンの向こう側から楽しそうな話声や、時折由香に悪戯されてティナが窘める声が響いてくる。
現代の下着から何から色々持っていったようで、すごくはしゃいでるようだ。
いいなあ……俺も混ざりたいのだが?
ちなみにエルフの下着はというと、肌が透けるほど薄い布を使った、ある種神秘的な雰囲気を醸し出す形状だった。
ベビードールあたりをエルフ流にアレンジした感じか?
とりあえず、ティナが着用している姿の破壊力は抜群だったとだけ言っておこう。
様々な植物の染料を使っているのか、意外といろんなカラーがあっていい感じだ。
さて二人の様子を聞いていると悶々としてくるので、情報の整理でもするか。
出会った時の様子から当然の帰結ではあるが、由香もまた未来の記憶を持っている。
卒業式が終わったあの日、服飾関係のデザイナー志望であった由香は、母親の経営するこの服屋で夜遅くまで練習をしていた。
深夜、外の騒ぎに気づいて確認しに行った施設管理の警備員は全員が死亡。
この頃にはビルに残っていた人は誰もおらず、スマホで魔物の情報を入手した由香は窓から外の惨状を目の当たりにして、魔物に見つからないようにコッソリ扉を施錠して回ったそうだ。
恐怖に震えていた由香が、感情を誤魔化すため愛用する布の裁断用鋏を手にした瞬間、タイムパラドックスの魔法が発動したらしい。
建物の電気は生きているし、ある程度の食料もあるのでそのまま籠城を開始。
あとは未来の記憶から読み取った情報で、俺達が来る数時間前に裏口の鍵を開けてくれたらしい。
タイムパラドックスが無かった頃の最初の出会いに関しては、ゴブリンと騒がしく交戦しながら突破を図ろうとする俺達を目撃し、連中にバレないようコッソリ建物内に招きいれてくれたのが始まりだそうだ。
もしも俺達が来なければ、由香はこの建物の中にずっと一人で…………いや、俺達の命だってどうなっていたか分からない。
ティナが恩人だと言った意味を噛みしめる。
ひどく危ういバランスで、今この瞬間が成り立っているのだ。
「じゃじゃ~ん!お待たせ~ってなに黄昏てるの渉君?ほら、お待ちかねの大好きなティナちゃんだよ?」
唐突に勢いよくカーテンをシャッと開けると、由香が恥ずかしがっているティナを俺の目の前に押し出してきた。
「い、いかがでしょうか?」
もじもじとしながら上目遣いでこちらの反応を窺うティナの姿に、俺はただ見惚れるばかりだ。
豊満な胸元を押さえつけて大きく膨らんだブレザーと、女の子の可愛らしさを強調するリボン。
清楚なのにどこか色気を放つミニスカートと、そこから覗く真っ白な太ももが目に眩しい。
その白さを引き立てるかのように、紺色のハイソックスがアクセントとなってコントラストを強調させている。
「ティナ……可愛い……」
いろんな言葉が脳裏に思い浮かぶが、口から溢れるのはただその一言だけだ。
「えへへ、あ、ありがとうございます」
頬を染めて照れているティナとじっと見詰め合う。
ヤバい……可愛いとしか言えなくなる病気にかかったかもしれない。
このまま押し倒したいくらいの破壊力なのだが、由香さんお願いします!
ちょっとだけ向こう行っててくれない?
「ちなみに下はこんな感じになっております」
由香がティナのスカートを後ろからぴらっと捲り上げた。
一瞬チラリと目に焼き付いた下着は純白で、左右を紐で結ぶセクシーでもありキュートさをも演出する最高のものであった。
「きゃあ!もう、由香さん!」
「ぐはっ!由香、なんてことを!(いいぞ、よくやった!もっとやれ!)」
なんという素晴らしい仕事をするんだコイツは!
さっきは向こう行けとか思ってごめんよ。
「いいじゃんティナ。渉君喜んでるよ?」
「うふふ、そうですね。ですが、渉様ならこちらも喜んでくれますよ?」
今度はティナが羞恥に頬を染めつつも、笑顔で由香のスカートをぴらっと控えめに捲り上げた。
ほぅピンクか……意外と可愛らしいのが趣味なんだな。
「きゃああああぁぁ!や、だ駄目!渉君、お願い……見ないで……ティ、ティナごめんってば!」
「すっっごく恥ずかしいの、分かってもらえましたか?」
むくれたティナと、謝り倒す由香。
けれどそんなのはポーズだけで、しばらくすると二人して可笑しそうに笑い合っている。
俺達の恩人さんは、騒がしくて、悪戯好きで、おまけに女子校生じゃなかった。
けれど今こうしてじゃれ合うことができるのは、紛れもなく彼女のおかげなのだろう。
この先出会う誰もが、悲惨な死の運命を抱えている。
何度やり直したのか分からないが、今度こそ乗り越えてやる。絶対に。
読んで下さっている皆様、いつもありがとうございます!




