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俺、この戦いが終わったら結婚するんだ⑤

重い展開には、ならないです。

 散策の後、ティナに手を引かれるまま彼女の家へと戻ると、そこに待っていたのは未知の魔法だった。



「渉様、こちらを」



 客間の椅子に座ると、ティナからハナミズキの装飾が施された美しい短剣を手渡された。

 彼女の持つ美麗な短剣とは別のものだ。

 そのまま掌に載せたまま眺めていると、急激に青白い輝きを放ちはじめる。

 僅かに慌てていると、ティナの柔らかな両手が俺の手を包みこむように重ねられた。



「大丈夫です。このまま委ねてください」



 短剣から発せられた光は魔力の流れのようで、徐々に俺の肉体が同様の輝きに包まれる。

 脈動するかのように明滅しながら身体中へと光が行き渡ると、頭の中に何かが流れ込むような感覚があった。


 …………これは、記憶なのか?


 まだ体験していないはずの出来事、知識が強制的に脳の一部に流入し書き込まれていく。

 やがて、明滅を繰り返していた短剣が元の色を取り戻した。


 たった今発動した魔法の正体が、今なら分かる。



 ”事象改変魔法タイムパラドックス”



 未来で俺が創り出したオリジナル魔法の名前だ。

 魔法の効果自体は単純で、物質を媒介として一部の記憶や知識のみを過去の自分へと転送するだけのもの。

 この先起こる事象を事前に知るために、試行錯誤して創り出したものらしい。


 開発当初、求められた効果は情報の転送ただそれだけであった。

 けれどもしも、過去の自分が未来の記憶を手に入れたとすれば何をするか?

 記憶や知識を転送するタイミングは、基本的に何か良くないことが発生したときだ。

 然るべき時間軸の自分へと情報を伝達したのならば、当然不都合な出来事を回避し、前より良い結果、より良い未来を求めて行動するであろう。

 結果的に記憶の転送を決意するに至った未来を消滅させ、発生したはずの事象は改変される。

 つまり俺は意図せず、限定的に人生をやり直すというとんでもない魔法を創り出してしまったらしい。

 過去が先か、未来が先か。

 今の俺がどの時点から何回やり直した俺なのか…観測する方法は転送された記憶から推察するしかない。



 突き動かされるように、早速付与された知識を読み解いてみる。

 転送された情報はそれほど多くはない。

 魔法全般の知識と使い方、オークとの交戦により発生する出来事、魔法タイムパラドックスについて。


 どうやら、この世界の魔法で発動できる効果はかなり自由度が高いものであるようだ。

 術者が明確にイメージできるのであれば、魔力を介して何でも魔法にできる。

 詠唱はイメージを補強するものにすぎず、ある意味では飾りだ。

 いわば万能ツールのごとき魔法だが、当然制約がある。

 複雑な効果や、大規模な魔法ほど消費される魔力もまた莫大なものになるのだ。

 理論上星ごと吹き飛ばす魔法も使えるが、それに見合った魔力は途方もない。

 何でもできるが、燃料は限られている。



 思考に没頭していると、膝上に重みが伝わり俺の顔が柔らかいものに覆われた。

 どうやら椅子に座る俺の上に跨がり、対面から抱きついているティナさんのお胸のようだ。

 手に持っていたはずの短剣はいつの間にか取りあげられている。

 


「えっと、急にど、どうされましたでございますか?」



 至高の谷間に顔を挟まれたまま問いかけるが、答える声はない。

 それどころか益々抱きつく力を強め、まるでわざと押し付けるかのように素晴らしい感触を楽しませてくれる。

 当ててんのよ!どころの話ではないぞ。

 しかもノーブラだ。

 大きくて柔らかいのだ。

 至福のひととき。

 まさに男にとっての天国だが、このままでは我慢できなくなる。

 無理やり包容を解かせると、そこにはむくれた顔のティナさんがいました。



「急じゃないです。何度も呼び掛けましたのに、全然気がついてくださりませんでした」



 少しイジケたように、頬っぺたをつつかれる。

 子供っぽい仕草が可愛らしい。

 が、そうも言ってられん。

 機嫌を直してもらうには平謝りスキルを発動するしかない。



「大変申し訳ありませんでした!」


「他人行儀なのは嫌です」


「ごめんなさい」


「クスッ、本当はそんなに怒ってないですよ」



 一転していつもの笑顔になると、膝から降りた。

 女性の感情は難しい。






 現在時刻19:45



 ティナを連れて近くの森へと赴く。

 計らずとも未来の自分から完全な魔法の使い方を伝授されたが、やはりテストは必要だろう。


 オークはまだ村周辺への攻撃圏内に入っていない。

 しかし既に包囲の輪は完成しており、エルフ戦士団が遠距離から散発的に攻撃を行ってその歩みを遅滞させているが、それももうすぐ限界だろう。


 未来から得た交戦による被害はハイネ村の全滅だ。

 彼我の戦力差を考えれば当然の帰結である。

 その中で俺とティナだけが包囲を突破し、ホームセンターがある階層へと脱出に成功したらしい。


 だが、今回はそうならない。

 前回は俺が修行によって自力で習得した魔法以外を扱えなかったのが敗因だ。



「ティナ、危ないから少し離れてて」


「はい」



 例のごとく腕に抱きついていたティナが、そのまま半歩ほど下がる。

 まだ近いし、手を握ったままだ。

 それでも少し寂しそうな表情になっている。

 なにやら意地でもくっつくのをやめたくないという気配なんですが。



「そうじゃなくて、怪我したら大変だから向こうの木の前で見てて」



「む~名残惜しいですが、そうまでおっしゃるなら」



 しょぼんとした足取りで離れていく。

 くっつかれるのは大変嬉しいのだが、どうやら想像していた以上に彼女は甘えん坊のようだ。


 俺も離れたことで物足りなさを感じる気持ちを切り替え、魔法に集中する。

 さて、どれを使ったものか。

 結局のところ、広域殲滅魔法を使えなかったのが前回の敗因だ。


 オークは魔法を使えないし、おまけに弓等の飛び道具も装備していない。

 エルフは弓も魔法も使えるが攻撃可能な範囲は狭い。

 相手が二倍程度の戦力ならば遅れをとることもなかっただろうが、圧倒的な数で逃げ場もなく包囲されればじり貧だ。



 魔法に利用する魔力は、主に空間に満ちているものと、体内に溜め込まれたものを利用する方法がある。

 前者は肉体的な負担が少なく比較的大規模な魔法に適した特徴があるが、使う場所によって魔力量が安定しない。

 後者はどこでも発動できる反面、個人が保有できる魔力量も自然に満ちたものに比べて劣る傾向にある。

 その上、使いすぎて魔力枯渇に陥れば回復するまで動けなくなるのだ。


 しかし村周辺の森が戦場になるこの戦いならば、魔力に関しては心配の必要がない。

 エルフの加護と呼ばれる大量の魔力が満ちているので、これを使えば大規模な魔法を何度も行使できるのだ。



 正直、タイムパラドックスによってもたらされた情報のおかげで、不安よりもワクワクしている自分がいる。

 イメージさえできれば憧れのあの魔法とか、そんな魔法も使えるのだ。


 とりあえず殲滅に際し、火魔法は却下だ。

 大森林に火を着けたらどうなるかは馬鹿でもわかる。

 それにオークを殲滅してもエルフの住む森を焼き払ったら激怒じゃ済まないと思うしな。



 ただし、森林伐採くらいは許してもらうしかない。

 広域を攻撃する以上、森に被害を出さずに済む手段なんて無いのだ。




 目を閉じて深呼吸。

 息を吐き出すと同時、左手を広げて前に突き出し、詠唱を開始した。

 ちなみにどちらも意味はない。




『祖は 荒れ狂う暴風となりて 我が元へ集え!』




 大気中に蠢く大きな力の波動を感じる。

 魔力の奔流だ。


 風が吹き荒れ眼前の空間へと流れ込む。




『渦を巻き 天地を流れる風は刃とならん!』




 イメージするのは巨大な竜巻だ。

 その中に目に見えぬ無数の刃を内包させる。




『シルフの怒りよ ここに顕現せよ!』




 大気中より取り出した膨大な魔力が収束するのを感じる。

 風が禍々しい黒い輝きを帯びた。




 すべてを限界まで圧縮し、解き放つ時を待つ。









『汝の名は ーーーーテンペスト(殺戮ノ大風刃)!』










 瞬間、森が消し飛んだ!






 漆黒に染まった巨大な竜巻が洞穴の天井まで立ち昇り、前方の空間を喰らい尽くすかのようにバラバラに分解して行く。


 遠方から響く豚にも似た凄惨な悲鳴。

 もしかしなくても、オークの軍勢のものだろうか?







 テスト結果は、すこぶる良好だったようだ。

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