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俺、この戦いが終わったら結婚するんだ⑥

 最高の気分だった。

 強大な魔法をこの手で操ってみたいという夢を叶えた喜びと、間違いなくオークに勝てるという確信。

 というか既に相当数を殲滅してしまったようだが……。


 ちなみに、魔法の原理を知った俺は発動するために詠唱する必要はない。

 現代人、しかも日本人でオタク文化に広く漬かっている俺は、魔法の効果や付随する現象を明確に、かつ容易にイメージできる。

 ネットで仕入れることのできる、現実の兵器、科学、災害による破壊現象の知識や動画。

 小説、アニメ、漫画、映画、もはや魔法をイメージするための材料に事欠かない。




『テンペスト!』



 再度、別方向に向けて無造作に放つ。

 発動には魔法名があれば十分。

 凄絶な竜巻が発生し、行く手を遮る木々やオークの軍勢を跡形もなく蹴散らしていったようだ。

 遠方から響き渡る悲鳴は、理不尽に対する絶望と怨嗟に満ちているように感じられた。



 ……御愁傷様です。




 しかし、なんか違うんだよな。

 効果も発動もすべてイメージによって決まるため、その威力も最初に放ったものと遜色ない。








 ーーーーーだが、物足りない!





 忘れかけていた……否、忘れなければならないと封印していたはずの中二病魂が、どうしようもなく疼くのだ。

 特別な力を持たなかったあの頃、現実で詠唱などしようものならただの痛い奴だ。

 けれど今、俺は本当に特別な力を手にしてしまった。

 あの頃の黒歴史は、今この時のためにこそ思い描いていたものではなかったか?


 ならば存分に特別な自分に酔ってみせるのが、虐げられしあの頃の自分への誠意に他ならないだろう。







「渉様」






 振り返ると、我(オレ)を見詰める契約者(フィアンセ)……妖精の巫女たるティナの相貌が、切なそうな表情に彩られていた。

 憂いを帯びたその姿はしかし、あまりにも可憐で美しい。

 因果の鎖にて結ばれし我等であるが、世界を越えて邂逅した瞬間のことは今も我の心を鮮烈に染め上げている。





「如何した?」






 しばし逡巡するかのように顔を伏せるティナ。

 だがそれも僅か。

 一拍の間を置き、面を上げて決然と微笑む。











「森、治してくださいね?」



「あっ、はい…………ホント、スミマセン」




 分かっていた。

 やり過ぎてしまった、と。

 森に住むエルフさんの大事な土地を、あろうことか遥か彼方まで更地に変貌させてしまったのだ。

 テンションが上がりまくって調子に乗ったあげく二発もぶっぱした結果、無事な木々はホームセンターの階層へ抜ける方角だけ。

 この様子であれば、おそらく白兵戦で蹴散らせる程度のオークしか残っていないだろう。




「あなた様なら、元通りにできますよね?」



「む、無論だ」



 笑顔から迸る無言のプレッシャーが凄い。

 早く回復魔法を……いや駄目だ。

 原型すら留めていないこの有り様では、再生魔法か時間遡行の領分だろう。




『再生(リバイバル)!』



 呑気にカッコつけて詠唱とかしてる場合じゃない!

 魔法名も直訳で適当だ。

 だがそんな雑なやり方でも効果はキチンと発動する。

 瑞々しい魔力光を宿した生命の息吹が更地になった空間へと広がり、まるで早送りのごとく大量の植物を甦らせていく。

 これで事なきを得たはずだ。



 森林が急速に再生されていく様は、とても幻想的だった。

 青く輝く天井の瞬きと、木々を彩る魔力の煌めきが混ざり合って織り成す光のイルミネーション。

 そして隣にはそんな素晴らしい景色を一緒に眺めてくれる美少女がいる。

 いつのまにか寄り添っていたティナが、俺に体重を預けてポツリと呟いた。



「あなた様に、心より感謝を」



 その一言に、万感の想いが込められていたように感じたのは、俺の気のせいだろうか?

 キュッと胸元にすがりついたその身体は震えていた。



「オークの軍勢を退けて頂いたばかりか、森のことまで無理矢理お願いして……。わたくしは我が儘でズルい女です」



「そんなことはないさ。もしティナがズルい女だって言うなら、俺なんてただの最低野郎だぞ」



 おそらく彼女もまた、タイムパラドックスを使って何らかの記憶を受け取っているはずだ。

 それも、俺に出逢う前から。

 そしてその記憶は一回分だけではないだろう。


 未来の俺達がどんな想いを抱え、やり直しを望んだのかは分からないし、知る気もない。

 だが、涙に頬を濡らしてなお美しい、ティナの幸せそうな笑顔が見れたのだから、過去を変えるために頑張ってきた彼らに素直に敬意を捧げたいと思う。





「最低じゃないです!」



 真っ直ぐ俺に向けられたその眼差しは、信頼と確信に満ちていた。







「だってあなたは、わたくしの素敵なご主人様なんですから!」








 んっ?

 聞き間違いかな?

 夫を呼ぶときにご主人様なんて敬称をつけるだろうか……?




「えっと、よく知らないんだけど、エルフは結婚したら旦那をそんなふうに呼ぶの?」



「け、結婚!?そ、そそそんな奴隷のわたくしなんかが畏れ多い!」



 村に到着してプロポーズしたときよりも更に真っ赤に頬を染め、慌てふためいているティナさん。

 いや、待て。

 落ち着け。

 奴隷?




 そんなこと一言も……………………。




 ひとことも?



 そうだった!





俺は ひ と こ と も 結 婚 し て く れ なんて言ってない!







 ティナさん、さっきのあれ前言撤回したほうがいいよ。






 最低な男は宙を仰ぎ呟く。









 俺、この戦いが終わったら結婚する……はずだったんだ。






読んでくださっている皆様、評価、ブクマしてくださった皆様、ありがとうございます!


アクセス数が激増していたので何事かと思っておりましたら、なんと日刊ランキング100位以内に入るという栄誉を賜りました!

まことにありがとうございます!


未熟で至らない点が多々あるかと思いますが、これからもちょこちょこ更新できるよう頑張りますので、少しでも皆様に楽しんで頂ければ幸いです。

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