第六話 狂賢者キュリー
攻撃の先陣を切ったのはアルベルトであった。鉄から生成した槍を、キュリーの胴体へ突く。
だが、キュリーの凄まじいスピードに避けられてしまう。
「遅いですよ。止まって見える。そしてその槍、酸化しないように細工してありますね。
あなたは攻撃に集中していたみたいで気付かなかったようですが、私はその槍に3回ほど触れているん
ですよ?何をしたんです?」
「簡単だ。槍を生成するときに、鉄に空気中の窒素を加え窒化処理を施した。
だから、よほどの水分や酸じゃなきゃ錆びねえんだよクソ野郎!」
言い放つと同時に、槍で再びキュリーへ攻撃へ攻撃を仕掛ける。だがやはり当たらない。
「なるほど。力に科学で対抗しますか。ならば、私も知識で戦ってみせましょう」
そう言うと、キュリーは急に立ち止まった。アルベルトは攻撃のチャンスと感じ、
ついに槍で腹部を刺すことに成功した。槍はキュリーの腹部大動脈に刺さり、
血液が飛び散った。
「ブッ....!!やはり、腹部大動脈を攻撃しましたね....。なにせフューマ体質者は不死身
ですから、そりゃ血液の多い場所を狙い、細胞の再生を少しでも遅らせるようにするでしょう.....。
ですが....それも私の作戦です!
あなたのその槍を。いいえ。あなたを再起不能にする方法を思いついたのですよ!」
キュリーはそう言うと、突如血が付いた槍と、飛び血が付いたアルベルトの皮膚に触った。
そして、ある液体を生成したのだ。
「な、なんだ....?!槍と、皮膚が溶け出している?!ま、まさか....
お前....。自分の血液で.....!!」
「ええ、気づきましたか。人間の血液の一部。血漿には、豊富な塩化物イオンが含まれているのですよ。
私はそれを分離、分解し、体内の水分から抽出した水素イオンと合成させました。
フューマという便利な力があれば、わずか30秒で体内に作れましたよ。 もう気づいたでしょう。
今、あなたの皮膚と私の腹部に付着しているのは、窒素なんぞを含んだ金属をも溶かせる劇薬
なのですよ!!」
刺さった槍が塩酸で溶けたため、キュリーは一瞬で後ずさりし、腹部についている塩酸を元ある形に分解し、一命を取り留めた。だがアルベルトは、塩酸が多くの皮膚に付着しており、付着したのは生成や分解をするための腕もだった。そのため、分解が間に合わない。そんなアルベルトを見てキュリーは見下すように笑った。
「無駄ですよ!もう少ししたら筋肉をも溶かすでしょう!
アルベルト・ハンフリー。ここで私からあなたに話しておくことがあります。」
塩酸で体中を溶かされるアルベルトを前に、キュリーは微笑みながら話した。
「昔々、バジリスの研究所にキュリーという子供がいたそうです。その子はまだ幼く、
実験体にされていたそうです。そしてある日、その子がある実験のモルモットになる日が 来ました。
それは、”エリクサーを子供に投与するとどうなるか”という実験でした。
彼は嫌がりましたが、抵抗虚しく、エリクサーを打ち込まれてしまいました。
彼にエリクサーを打ち込んだのは、初のエリクサー投与者。ハンフリー博士でした。
ハンフリー博士は命があと少しでしたが、研究に命を最後まで注ぎ込んでいた男でした。
そしてキュリー少年のエリクサー投与実験は終了。ですがキュリー君は怒っていました。
散々痛い思いをしたのに、挙句の果てには人ではなくされた。キュリー君は怒り、
研究員を殺害し、研究所を燃やしましたとさ。どうです?面白いでしょう?」
アルベルトは自身の父親の死因。そして父親が行っていたことへの絶望。
すべてが重なり、落胆してしまった。
「わかったでしょう。私とてこの力を望んだわけじゃない。
それと、このことを話したのはあなたがもうすぐ塩酸で溶け切るからです。
見なさい、もうすでに筋肉も溶け切っています。
いずれ死人になる人になら秘密をあかせるでしょう?いなくなるんですもん。
ではそこで溶け切り朽ちなさい。アルベルト・ハンフリー。案外楽しめましたよ」
そうキュリーは言い残すと、落胆し、溶け切りそうになっているアルベルトをよそに研究所をあとに
した。父の外道な真実を知り落胆し、「望んでない」と言うくせにフューマという力で命を奪い続ける
キュリーに静かな怒りを残しながら、アルベルトは、目を閉じ、塩酸に包まれ朽ち果てたのだった.....。




