未登録領域
ログの層が閉じたはずだった。
なのに、閉じ切っていない。
“閉じたことになっているだけの隙間”が、地下の奥に残っている。
ミナがその方向を見て眉をひそめる。
「ねえ、あそこ……まだ何かいるよね」
セリアも目を細める。
「ええ。記録から外れてる」
リシアが小さく震える。
「外れてるって……どういうこと?」
ネアは静かに答える。
「“保存されていない”」
レインは剣を肩に担いだまま、その隙間を見る。
「まだあるのかよ」
ゼノスが淡々と返す。
『記録対象外領域』
『封印システム起動前から存在する可能性』
ミナが顔をしかめる。
「それもう怖いんだけど……」
セリアはゆっくり息を吐く。
「つまり、“最初から想定されてないもの”ってことね」
その瞬間。
隙間が“見えた”。
形はない。
音もない。
ただ、“そこに何かがいるという確信だけが強制される”。
リシアが息を呑む。
「なにこれ……怖いっていうより、認識できない……」
ネアは静かに言った。
「うん」
「“未定義よりさらに下”」
ミナが一歩後ずさる。
「もうさ、ここまで来ると何でもありじゃん……」
セリアは首を振る。
「違うわね」
「ここからは“何でもないもの”」
レインはその“隙間”に向かって一歩踏み出す。
その瞬間――
空間が拒否しない。
止めない。
攻撃もしない。
ただ“見なかったことにしようとする”。
ミナが叫ぶ。
「今のやばいって!!」
セリアが目を見開く。
「反応すらしてない……存在を無視してる!」
ネアは静かに言う。
「これが未登録」
「“反応すら記録されない領域”」
レインは剣を軽く回す。
「で、そいつは敵なのか?」
ゼノスが答える。
『分類不能』
『敵でも味方でもない』
『存在の枠外』
隙間がわずかに“動く”。
動いたというより、“こちらの認識がズレた結果そう見えた”。
リシアが青ざめる。
「戦い方とか……あるのこれ?」
セリアは小さく首を振る。
「ないわね」
「だって“相手として成立してない”もの」
ミナがぼそっと言う。
「じゃあレインでも無理じゃん……」
ネアは即答する。
「ううん」
「“成立してないからこそ触れる”」
レインはその隙間を見て言う。
「めんどくせぇな」
一歩踏み込む。
――拒否。
しかし今回は、何も起きない。
拒否も、停止も、変化もない。
ただ“そこにレインがいることだけが成立する”。
ミナが固まる。
「え、今の何も起きなかったのに一番怖いんだけど」
セリアが息を呑む。
「逆ね……“何も起きないことが反応”」
隙間の奥で、ほんの一瞬だけ“揺れ”。
それは声ではない。
意味でもない。
ただの断片。
『観測未登録』
リシアが小さく呟く。
「今の……見ちゃいけないやつじゃない?」
ネアは静かに言った。
「見たことすら記録されない」
レインは肩をすくめる。
「で、どうすんだこれ」
ゼノスが答える。
『処理不可』
『干渉不可』
『接触のみ可能』
セリアが呟く。
「つまり……触れた瞬間にしか何も起きない」
ミナが青ざめる。
「それもう運ゲーじゃん……」
リシアが不安そうに言う。
「触ったらどうなるの?」
ネアは静かに答える。
「誰にもわからない」
レインは一歩踏み出す。
「なら簡単だろ」
ミナが叫ぶ。
「どこが!?」
レインは笑う。
「やってみりゃいい」
そして――
レインの手が、“未登録領域”に触れる。
その瞬間。
世界から、一拍だけ“音が消えた”。




