三首の魔狼
森が割れる。
巨大な黒狼が姿を現した瞬間、空気そのものが震えた。
三つの首。
六つの赤い瞳。
口元から漏れる黒い霧。
その巨体は、先日現れた黒獣グラディウスよりも素早そうだった。
「……嘘だろ」
ガルドの顔から血の気が引く。
周囲の村人たちは完全に怯えていた。
「む、無理だ……」
「勝てるわけ……」
だが。
黒ローブの男は笑っていた。
「さあ、継承者よ」
赤い瞳がレインを捉える。
「力を見せてみろ」
次の瞬間。
三首狼が咆哮した。
ォォォォオオオオオオッ!!
衝撃波。
地面が砕ける。
木々が吹き飛ぶ。
「伏せろぉ!!」
ガルドが叫ぶ。
レインはミナを庇いながら踏ん張った。
だが。
【個体名:《冥獄狼ケルヴァ》】
【危険度:災厄級】
【現在勝率:0.08%】
「ゼロみたいなもんじゃねぇか……!」
冷や汗が流れる。
セリアが前へ出た。
「レイン」
「……なんだ」
「逃げて」
レインは目を見開く。
「は?」
「今ならまだ間に合う。このレベルは王国騎士団案件」
セリアは杖を構えたまま続ける。
「辺境村で対処できる相手じゃない」
「じゃあお前はどうすんだよ」
「時間を稼ぐ」
「死ぬぞ!」
「それが役目」
あまりにも淡々とした声だった。
レインは言葉を失う。
だが次の瞬間。
三首狼が地面を蹴った。
速い。
一瞬でセリアの目前へ迫る。
「ッ!」
セリアが氷壁を展開。
だが。
バキィィン!!
爪の一撃で粉砕された。
「なっ……!?」
セリアの顔に初めて焦りが浮かぶ。
死ぬ。
誰もがそう思った瞬間。
キィィン!!
白銀の剣が爪を受け止めた。
「……レイン!」
セリアが目を見開く。
レインは歯を食いしばっていた。
重い。
腕が千切れそうだ。
だが。
退けない。
「逃げろって言われて逃げられるかよ……!」
三首狼の一つの頭が唸る。
近い。
赤い目が、すぐ目の前にある。
その瞬間。
レインの頭に、また記憶が流れ込んだ。
戦場。
炎。
絶望。
そして。
“誰かを守れなかった記憶”。
『もう二度と失わない』
知らない誰かの声。
胸が熱くなる。
【継承同期率:21%】
【新規能力解放条件を確認】
黒い文字。
次の瞬間。
レインの視界が変わる。
世界が、線で見えた。
三首狼の筋肉。
魔力の流れ。
攻撃軌道。
全部。
【戦闘補助:《魔力視》解放】
「見える……!」
三首狼が再び爪を振るう。
だがレインは半歩だけ動いた。
それだけで回避。
「!?」
セリアが驚愕する。
偶然じゃない。
完全に見切っていた。
レインはそのまま剣を振る。
銀閃。
ザシュッ!!
「グルァァァァ!!」
一つの首に深い傷が走る。
黒い血が噴き出した。
村人たちが息を呑む。
「傷を……!」
「災厄級に……!?」
だが。
三首狼は笑うように唸った。
傷口が、黒い霧で再生していく。
「再生……!」
絶望的だった。
すると黒ローブの男が笑う。
「素晴らしい」
その瞳が狂気に染まる。
「やはり継承者は面白い」
「……お前、何が目的だ」
レインが睨む。
男は両手を広げた。
「黒月の降臨」
空を見る。
黒い月が、不気味に脈打っていた。
「世界はいずれ終わる。そのために、お前が必要なのだ」
「意味分かんねぇよ……!」
「今はな」
男は笑う。
「だがいずれ理解する。継承者は世界を壊す器なのだから」
その瞬間。
三首狼の魔力が爆発的に膨れ上がった。
【警告】
【超高密度魔力反応】
レインの本能が叫ぶ。
まずい。
次の攻撃は、今までと違う。
三つの首が同時に口を開いた。
黒い光が集束していく。
「全員下がれぇぇぇ!!」
ガルドの怒号。
だが間に合わない。
避けられない。
その時。
頭の中で、ゼノスの声が響いた。
『剣を解放しろ』
「……え?」
『今のお前なら届く』
白銀の剣が震える。
光が強くなる。
【条件達成】
【記憶武装 第二段階 解放可能】
レインの右手が熱を帯びる。
次の瞬間。
白銀の剣が、眩い蒼光を放った。




