再起動拒否
空気が“書き換え前の静寂”に変わっていく。
音が消えるのではない。
「まだ音になる前の状態」に戻されていく。
ミナが息を呑む。
「これ……ほんとにヤバいやつでしょ」
セリアは空を睨みつける。
「リセットというより、“巻き戻し準備”ね」
リシアが震える。
「今までの全部……なかったことにされるの……?」
ネアは静かに言った。
「される」
「ただし――条件付き」
空の奥で、“観測再起動”がゆっくり展開される。
世界が薄くなる。
輪郭が消えていく。
だがレインだけは、その中心に“固定されたまま”だった。
ゼノスが低く言う。
『来る』
「何がだよ」
『再初期化だ』
レインは舌打ちする。
「またそれか」
ミナが叫ぶ。
「もう何回目なのそれ!!」
セリアが必死に魔力を展開する。
「空間の基礎構造が巻き戻ってる……!」
リシアが涙声になる。
「レインだけ置いていかれてる……!」
ネアは目を細める。
「いや」
「置いていかれてるんじゃない」
「“残ってしまっている”」
その瞬間。
世界が一度“白”になる。
音も視界も消える。
ただ、意識だけが残る空間。
そして――
レインはそこに立っていた。
何もない。
ただ“存在の確認だけがある場所”。
「……またここかよ」
ゼノスが静かに言う。
『再起動前のバッファ領域だ』
「便利な名前つけるな」
『ここで全てが初期化される』
ミナの声が遠くから響く。
『レイン!?どこ!?』
セリアの声も混ざる。
『空間反応ゼロ……!』
リシアの声は震えている。
『また消えちゃうの……!?』
ネアの声だけが、はっきり届く。
『違う』
『まだいる』
“白”の中で、何かが動く。
それは世界の“設定値”。
人間。
空。
時間。
すべてが初期値へ戻ろうとする。
だがその中で、ひとつだけ弾かれるものがあった。
レインの“拒否”。
蒼黒の光が、白の中で静かに燃える。
ゼノスが低く言う。
『ここが境界だ』
「境界?」
『初期化できる領域と、できない領域の境』
レインは剣を握る。
「なら簡単だな」
ミナの声が聞こえる。
『何が!?』
レインは笑う。
「境界壊せばいいだけだろ」
その瞬間。
蒼黒が“白”を切り裂いた。
――バキン。
音ではない。
概念の破砕音。
白が揺れる。
初期化が一瞬止まる。
セリアが叫ぶ。
「止まった……!?」
リシアが息を呑む。
「レインが……押し返してる……!」
ネアは静かに言う。
「いや」
「押し返してるんじゃない」
「“再起動に割り込んでる”」
白の中で、ログが乱れる。
『再起動処理:中断』
『外部干渉確認』
『対象:レイン』
ゼノスが静かに言う。
『成功だ』
「何がだよ」
『お前が“初期化対象から外れた”』
ミナが叫ぶ。
「それっていいの!?悪いの!?」
セリアが呆れる。
「普通は一番やばいパターンね」
リシアが小さく言う。
「もう、普通がわからない……」
ネアは静かに言う。
「いいとか悪いじゃない」
「“残った”」
白が割れる。
世界が戻り始める。
だがそこにあるのは、元の世界ではなかった。
少しだけ“ズレた世界”。
レインは剣を肩に担ぐ。
「戻った……のか?」
ゼノスが静かに答える。
『半分だ』
「半分ってなんだよ」
『お前が残した分だけ、世界も残った』
ミナが呆れる。
「また変なことしたでしょ絶対」
セリアがため息をつく。
「もう元通りにはならないわね」
リシアが少し笑う。
「でも……ちゃんとある」
ネアは空を見上げる。
「うん」
「“直らなかった世界”ができた」
空は青い。
だがその青はもう、“更新された青”ではない。
どこかにひとつ、確かな歪みが残っている。
レインはそれを見上げて言う。
「悪くないじゃねぇか」
ゼノスが静かに言う。
『まだ終わっていない』
レインは笑う。
「知ってる」
空の奥で――
観測はまだ、こちらを見ていた。




