判断不能
空の“目”が閉じかけたまま、止まっている。
まるで、瞬きを途中でやめたみたいに。
その違和感が、逆に世界全体へと広がっていく。
レインは空を見上げたまま、眉をひそめる。
「……なんだこれ」
ミナが不安そうに言う。
「今度はこっちがフリーズしてる感じじゃない?」
セリアは空間を観測しながら呟く。
「処理が止まってる……でも停止じゃない」
リシアが小さく震える。
「考えてる……?」
ネアは静かに言った。
「違う」
「“迷ってる”」
――キィン。
空間が一瞬だけ乱れる。
ログが途切れ途切れに流れる。
『最終評価……継続不能』
『判断系統……エラー』
『上位観測者……応答遅延』
ミナが顔をしかめる。
「上の上までバグってるじゃんこれ……」
セリアが唇を噛む。
「システム崩壊の初期症状よ」
リシアが不安そうに言う。
「じゃあ……この世界どうなるの……?」
ネアは空を見上げたまま答える。
「“決められない世界”になる」
空の奥で、“目”がわずかに震える。
そして、新しいログが走る。
『対象:レイン』
『評価不能の原因分析開始』
レインは剣を肩に担ぐ。
「まだ俺のせいかよ」
ゼノスが静かに言う。
『そうではない』
「じゃあ何だ」
『“お前という例外が多すぎる”』
ミナが突っ込む。
「それ褒めてるの?怒ってるの?」
セリアはため息をつく。
「どっちでもないわね。システム的に困ってるだけ」
リシアが小さく言う。
「そんなのありなの……」
ネアは静かに言った。
「ない」
「だから壊れてる」
空の“目”が一瞬だけ開き直る。
しかし、その動きは以前のような完全性を失っている。
ログが崩れる。
『評価軸再構築要求』
『基準不整合』
『外部要因:レイン』
レインが舌打ちする。
「外部要因って言うな」
その瞬間だった。
空の奥から、もう一つの“視線”が現れる。
今までとは違う。
冷たい“管理者”でもない。
評価する“上位”でもない。
ただ静かに観察している、さらに外側の何か。
ミナが息を呑む。
「……まだ上あるの?」
セリアが顔を強張らせる。
「今度は何よ……」
リシアが震える。
「もう終わりじゃなかったの……?」
ネアは静かに言った。
「終わってない」
「“評価が止まった結果”が来る」
空の奥で、新しいログが一行だけ流れる。
『観測者交代申請』
空気が変わる。
“目”がゆっくりと閉じる。
そして――
その奥から、別の存在がこちらを見た。
それは評価しない。
修正もしない。
ただ一言だけを持っている。
『観測再起動』
レインはそれを見上げる。
「……まだやる気かよ」
ゼノスが静かに言う。
『いや』
「何だよ」
『今度は“最初からやり直す”気だ』
ミナが青ざめる。
「え、それ一番やばいやつじゃない?」
セリアが呟く。
「全部リセットってこと……?」
リシアが震える。
「じゃあ今までの全部……」
ネアは静かに言った。
「無かったことにする試み」
レインは剣を握る。
そして、空を睨む。
「やれるもんならやってみろよ」
蒼黒の拒絶核が静かに脈打つ。
世界が再起動の気配を強める中――
レインだけが、そこに“残り続けていた”。




