最終評価
空に浮かぶ“目”は、瞬きをしない。
見ているというより、「結果を待っている」ような静けさだった。
レインは剣を肩に担いだまま、それを睨み返す。
「最終評価、だと?」
ミナが顔をしかめる。
「評価ってなに!?テストでもやってんの!?」
セリアは空を見上げたまま低く言う。
「今までは全部“試験”だったのよ……」
リシアが小さく呟く。
「じゃあ……今度は採点……?」
ネアは静かに言った。
「違う」
「これは“決定”」
空の目がゆっくりと開く。
その瞬間、世界の温度が一段階下がる。
『対象:レイン』
『観測履歴:異常継続』
『修正成功率:低下』
ログが淡々と流れる。
だがその内容は、明らかに“結論へ向かっている”。
ゼノスが低く言う。
『来る』
「何がだよ」
『結末だ』
空間が静かに圧縮される。
王都の音が消える。
風が止まる。
人々の動きさえ、一瞬だけ“固定”される。
世界そのものが、レインという一点に収束する。
ミナが叫ぶ。
「これヤバいやつでしょ!!絶対ヤバいやつ!!」
セリアが必死に魔力を展開する。
「空間が“結果確定モード”に入ってる……!」
リシアが震える。
「もう逃げられないの……?」
ネアは目を細める。
「逃げる必要がない」
レインが振り向く。
「どういう意味だよ」
ネアは空を指す。
「“逃げる前に終わる”」
空の目が、静かに一行を表示する。
『最終評価結果算出中』
その瞬間だった。
レインの中に、強烈な“違和感”が戻る。
さっきまで薄れていたはずの感覚。
それが、逆に濃くなる。
レインは歯を食いしばる。
「戻ってきたな……この感じ」
ゼノスが静かに言う。
『そうだ』
「何がだ」
『お前は“評価不能”だ』
ミナが息を呑む。
「評価不能って……それいいの悪いの!?」
セリアが苦笑する。
「普通は一番厄介なやつね……」
リシアが小さく言う。
「でも……それってつまり……」
ネアは静かに言った。
「どの基準にも収まらない」
空の目が揺れる。
ログが乱れる。
『評価基準照合:不一致』
『補正試行:失敗』
『再評価:不可能』
ミナが驚く。
「効いてる!!」
セリアも声を上げる。
「システムが困ってる……!」
リシアが小さく笑う。
「レインってほんとに……」
ネアは静かに言う。
「バグ」
空の目が、初めて“沈黙”する。
そして――
新しい行が追加される。
『結論保留』
世界が止まる。
レインは剣を下ろす。
「また保留かよ」
ゼノスが静かに言う。
『違う』
「何がだ」
『これは“決められない”ではない』
『“決める必要がある存在がいない”』
ミナが顔をしかめる。
「どういうこと?」
ゼノスは短く答える。
『上が壊れ始めている』
空の奥で、“目”がわずかに歪む。
今まで完璧だった構造に、初めてひびが入る。
ネアが小さく呟く。
「来てる」
レインが振り向く。
「何がだよ」
ネアは空を見上げたまま言う。
「評価の上」
「“決める側の崩壊”」
ミナが息を呑む。
「え、それってつまり……」
セリアが呟く。
「世界の管理が壊れるってこと……?」
リシアは震える。
「じゃあこれからどうなるの……?」
ネアは静かに言う。
「分からない」
「でも一つだけ確か」
レインが聞く。
「何だよ」
ネアはレインを見る。
「あなたのせい」
空の目が、もう一度揺れる。
そして――
静かに閉じ始めた。
評価はまだ終わっていない。
だが“評価する側”に異常が出ている。
世界は今、初めて――
自分自身の判断に迷い始めていた。




