馴染むという試験
空は青いままなのに、そこに“違和感のない違和感”だけが残っていた。
見えているのに、確かに「設計された空」。
レインは剣を肩に担いだまま、空を睨む。
「馴染めって、なんだそれ」
ミナが即答する。
「普通にムリなやつでしょそれ」
セリアは腕を組みながら眉をひそめる。
「戦う対象じゃないなら、対処のしようがないわね」
リシアは不安そうに周囲を見回す。
「でも、さっきからずっと空気が変わってる気がする……」
ネアは静かに言った。
「変わってるんじゃない」
「“調整されてる”」
レインが振り向く。
「調整?」
ネアは空を見たまま続ける。
「私たちの反応が、全部“観測されて補正されてる”」
その瞬間。
――カチ。
小さな音。
レインの違和感が一瞬だけ消える。
ミナが瞬きをする。
「……あれ?」
セリアも首をかしげる。
「今、何か考えてたような……」
リシアも同じ反応をする。
「え、なんで……?」
ネアだけが、顔をしかめる。
「もう始まってる」
空の奥で、“調整ログ”のようなものが流れる。
『対象反応:拒否傾向』
『修正案:低減』
『結果:成功』
レインは眉をひそめる。
「今の、なんだ」
ゼノスが静かに答える。
『干渉だ』
「どこにだよ」
『思考だ』
沈黙。
ミナが声を荒げる。
「思考って何!?今の何もしてないよね!?」
セリアは歯を食いしばる。
「無意識レベルに介入してる……」
リシアが青ざめる。
「馴染むって……こういうこと?」
ネアは静かに言う。
「“違和感を消す”試験」
レインは剣を握り直す。
「ふざけてるな」
ゼノスが低く言う。
『これは拒否できない』
「は?」
『拒否すれば“拒否という概念自体”が薄くなる』
ミナが顔を引きつらせる。
「それもう詰みじゃん……」
セリアが空を睨む。
「戦う対象がいないって、こういうことね」
リシアは小さく呟く。
「でも、痛いとか怖いとかはまだ残ってる……」
ネアはその言葉に少しだけ頷く。
「だからまだ“試験中”」
空がゆっくりと揺れる。
今度は攻撃でも観測でもない。
“環境そのものの微調整”。
風の流れがほんの少し変わる。
音の響きがわずかに変わる。
世界が「こっちの方が自然ですよ」と押し付けてくる。
レインはそれを感じた瞬間、剣を強く握る。
「気持ち悪ぃなこれ」
ゼノスが静かに言う。
『順応圧だ』
「順応?」
『“違和感を持ち続ける個体”は排除される』
ミナが即座に叫ぶ。
「それもう選択肢ないじゃん!!」
セリアも怒る。
「馴染めって強制じゃない!」
リシアが震える。
「でも……抵抗すると楽じゃなくなる……」
ネアは静かに空を見る。
「これが一番厄介」
「“敵がいない戦い”」
レインはゆっくり息を吐く。
「ならさ」
剣を肩に担ぐ。
「全部無視すりゃいいだけだろ」
ミナが即座に突っ込む。
「それで済むなら苦労してないってば!」
セリアはため息をつく。
「でも、やり方としては一番レインらしいわね」
リシアが小さく笑う。
「それしかできない気もする……」
ネアはレインを見て言う。
「それが“鍵”じゃなくなった理由」
レインが振り向く。
「またそれかよ」
ネアは静かに言う。
「あなたはもう鍵じゃない」
「“ズレ”そのもの」
その瞬間。
空がわずかに歪む。
ログが走る。
『対象:順応率低下』
『要因:不一致維持』
ゼノスが低く言う。
『いいぞ』
「何がだよ」
『それが“拒否の進化形”だ』
レインは笑う。
「じゃあ問題ねぇな」
空は静かに青いまま。
だがその裏側で、“世界”は確実に次の手を準備し始めていた。




