崩れない静寂
王都の復興は、驚くほど速かった。
それは魔法技術の力もある。
だが何より――
「終わらせた者」が、そこに立っていたからだ。
レイン=アルス。
黒い塔を壊し、門の主を倒した存在。
人々は彼を英雄と呼び始めていた。
だが本人は、瓦礫の上でぼんやりしていた。
「英雄ねぇ……」
ミナが隣に座る。
「なんか文句あるの?」
「いや、慣れねぇ」
「そりゃそうでしょ」
セリアは少し離れた場所で王都の魔法結界を再調整していた。
その横顔はいつも通り冷静だ。
ただ、ほんの少しだけ肩の力が抜けている。
リシアは人々の手伝いをしていた。
もう“逃げる少女”ではない。
ちゃんとここに立っている。
ネアはというと。
少し離れた噴水の前で、ぼんやり空を見ていた。
「……向こう側」
小さく呟く。
もう誰もいない“向こう側”。
その言葉は、どこか遠い夢のようだった。
その夜。
王都の上空。
誰もいない塔の跡地。
そこに、ひびが走った。
パキ…ッ。
空間そのものが割れる音。
だが、誰も気づかない。
ひびはすぐに消える。
しかし――
その奥。
“何か”が、確かに見ていた。
翌日。
レインはひとりで城壁の外にいた。
風が強い。
戦いの後の、妙に静かな風。
《アークヘリオン》は鞘に収まっている。
右腕の義腕は、まだ少し慣れない。
「……終わったはずなんだけどな」
ぽつりと呟く。
その時。
ゼノスの声がした。
『終わっていない』
「知ってる」
即答だった。
ゼノスは少し沈黙する。
『気づいていたか』
「さっきから空がうるさい」
レインは空を見上げる。
そこには何もない。
ただの青空。
なのに。
“向こう側”の気配が、薄く混ざっている。
『門は完全には閉じていない』
「だろうな」
『今回のは“第一門”に過ぎない』
レインの目が細くなる。
「第一?」
『まだ複数ある』
風が止まる。
空気が一瞬だけ重くなる。
レインは小さく笑った。
「マジかよ」
『次はもっと大きい』
「嫌な予告すんな」
ゼノスは淡々と続ける。
『だが、お前なら壊せる』
「簡単に言うな」
少し間。
レインは空を見たまま言う。
「なぁゼノス」
『なんだ』
「俺、まだ人間か?」
静寂。
風の音だけが続く。
やがてゼノスは答えた。
『半分だ』
「曖昧だな」
『だが“人間であることを選んでいる”』
その言葉に、レインは少し目を細める。
「なら、それでいい」
その瞬間。
背後から声。
「レイン!」
ミナだった。
「また一人でカッコつけてる!」
「つけてねぇよ」
「つけてる!」
セリアもやってくる。
「結界の再構築が終わった。戻るわよ」
リシアも小さく手を振る。
ネアも、少し遅れてやってくる。
「……またここにいるの?」
レインは振り返る。
そして少し笑った。
「ああ」
空を見上げる。
何もない空。
でも、もう怖くはない。
「次が来るなら」
剣の柄に手を置く。
「その時も、ぶっ壊すだけだ」
ミナが呆れた顔で笑う。
「結論それなんだ」
「それ以外あるか?」
セリアはため息をつく。
「相変わらずね」
リシアは少しだけ微笑む。
ネアは空を見上げたまま、小さく呟いた。
「……本当に変な世界」
風が吹く。
空は青い。
だがその奥で――
微かな“ひび”は、確かに広がり始めていた。




