残響
王都の空は、ゆっくりと色を取り戻していく。
黒い月は完全に消え、侵食の気配も薄れていた。
それでも、街は静かだった。
崩れた建物。
倒れた騎士。
焼けた地面。
戦いが“終わった”というより、「一度止まった」だけの光景だった。
レインは瓦礫の上に座り込んでいた。
左目の蒼黒の光はまだ微かに揺れている。
「……疲れた」
素直な一言。
ミナが横から肘でつつく。
「当たり前でしょ。何回死にかけたと思ってるの」
「数えてたのかよ」
「途中から数えるのやめた」
「雑すぎる」
セリアは周囲を見渡しながら呟く。
「黒い塔は……消えた」
その言葉に、全員の視線が塔のあった場所へ向く。
そこにはもう、何もなかった。
ただの大穴。
まるで最初から何も存在していなかったかのように。
リシアが小さく言う。
「……門が閉じた」
ネアはその横で、両手を見つめていた。
「私……まだ生きてるんだ」
ぽつりと。
実感のない声。
レインは少しだけ彼女を見る。
「当たり前だろ」
「でも、私は“器”だったのに」
「だった、だろ」
レインは肩をすくめる。
「今は違う」
その一言で、ネアの目が揺れた。
何かを言いかけて、やめる。
その代わり、小さく頷いた。
エルドは静かに剣を収める。
『王都防衛部隊、残存者を救助中』
「……生きてる奴、まだいるのか」
『はい』
レインは少しだけ空を見上げた。
戦いは終わった。
でも、終わっていない。
その時だった。
ゼノスの声が低く響く。
『レイン』
「なんだよ」
『お前の中の“終焉権限”は完全には消えていない』
レインの左目が微かに光る。
「……やっぱりな」
『今回の戦いで、“門の残滓”が少し混ざった』
「つまり?」
『お前はもう“人間だけ”ではない』
ミナが眉をひそめる。
「それ、今言う?」
『重要なことだ』
セリアが真剣な顔になる。
「暴走の可能性は」
『低い。だがゼロではない』
空気が少し重くなる。
レインは苦笑した。
「まあ、今さらだろ」
ミナが即座に言う。
「いやいやいや、今さらで済ませる話じゃないからね?」
「でももう生きてるし」
「だからって軽い!」
リシアが小さく笑う。
その笑いは、以前より少しだけ自然だった。
ネアもぽつりと呟く。
「……変なの」
「何が」
「あなたたち」
彼女は少しだけ空を見る。
「世界が終わりかけたのに、そんな顔してる」
セリアは肩をすくめる。
「慣れたくはなかったけどね」
ミナは即答する。
「慣れてたまるかって感じ」
レインは笑った。
「だな」
その瞬間。
遠くから鐘の音が響いた。
王都の再起動。
生きている証。
崩れた世界が、少しずつ戻っていく音だった。
だが。
その鐘の音の裏で。
誰も気づいていない場所。
黒い“ひび”が、ほんの一瞬だけ空に走った。
そしてすぐに消える。
まるで。
まだ何かが見ているように。
レインはそれを、ほんの一瞬だけ感じた。
「……気のせいか」
そう呟いて、立ち上がる。
仲間たちもそれに続く。
戦いは終わった。
でも。
物語はまだ続く。
そんな予感だけが、確かに残っていた。




