帰還
光の中で、意識がほどけていく。
レインの身体はすでに“輪郭”を失いかけていた。
冷たいわけでも、痛いわけでもない。
ただ、世界から切り離されていく感覚。
『レイン!!』
ミナの声が遠く響く。
『戻ってきなさい!!』
セリアの叫び。
『聞こえていますか!!』
リシアの必死な声。
ネアの、小さな祈りのような声。
『……お願い』
その声たちが、レインの中に残っていた。
まだ、繋がっている。
ゼノスが静かに言う。
『まだ完全には消えていない』
「……そうかよ」
レインは薄く笑う。
「しぶといな、俺も」
『お前の意志が残っている限り、戻れる可能性はある』
「それ、どれくらいだよ」
『知らん』
「即答かよ」
だが、そのやりとりが少しだけ現実感を戻した。
崩壊する狭間世界の中。
レインの前に、ひとつの“裂け目”が開く。
向こう側。
光の世界。
王都ルクセリアの空気。
仲間たちの気配。
『行け』
ゼノスが言う。
『ここに残れば、完全に消える』
レインは裂け目を見る。
向こうでは、ミナたちが必死に何かを叫んでいる。
必死な顔。
泣きそうな顔。
怒っている顔。
全部が見えた。
その瞬間。
レインは一歩踏み出そうとして――止まる。
「……なぁ」
『なんだ』
「終焉王」
少し沈黙。
そして、遠くから声。
『いるさ』
「お前さ」
レインは少しだけ笑った。
「最後まで諦めてたよな」
終焉王の気配が揺れる。
『……そうだな』
「でも俺は違う」
レインは裂け目を見る。
その先。
まだ続いている世界。
「終わった後も、生きるって決めてる」
その言葉に。
終焉王は何も返さなかった。
ただ、静かに。
『なら、行け』
レインは頷く。
そして。
光へ飛び込んだ。
――王都ルクセリア。
崩壊しかけた空。
消えかけていた黒い月。
その中心に、光が落ちてくる。
「……来る」
セリアが呟く。
ミナが息を呑む。
「レイン……!」
リシアが手を伸ばす。
ネアは震えながら見上げる。
光が収束する。
そして。
ドサッ。
地面に落ちる影。
静寂。
次の瞬間。
「……いてぇ」
その声に。
全員が一斉に振り向いた。
そこにいたのは。
腕を失い、ボロボロになりながらも。
笑っているレインだった。
「……帰ってきた」
ミナの目から涙が溢れる。
「バカぁぁぁぁぁぁ!!」
飛びつく。
「重い!!」
「うるさい!!」
セリアは肩の力を抜き、大きく息を吐いた。
「……本当に、しぶとい」
リシアはその場に崩れ落ちる。
「よかった……」
ネアは小さく呟いた。
「生きてる……」
空。
黒い月は、完全に消えていた。
王都の空が、久しぶりに“普通の空”に戻っていく。
だが。
レインの左目だけが、まだ蒼黒に光っていた。
ゼノスの声が静かに響く。
『終わりではない』
レインは空を見上げる。
「分かってる」
その表情は、もう戦いの後ではなかった。
次へ進む者の顔だった。




