門の主
塔の内部が、不気味に脈打っている。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓だった。
レインはゆっくり立ち上がる。
さっき見た存在。
“門の主”。
あれは危険とか、強いとか、そういう次元じゃない。
存在そのものが異質だった。
セリアが真剣な顔で聞く。
「……何を見たの」
レインは少し黙り。
そして答えた。
「ヤバい奴」
「雑!!」
ミナが即ツッコミした。
「いやでも本当に説明できねぇんだよ!」
ゼノスが低く告げる。
『正確には、“世界外存在の王”だ』
全員の顔色が変わる。
「王……」
『二百年前、終焉王が封印した存在』
ネアが震える声で呟く。
「そんなのが……起きるの?」
『完全復活すれば世界は終わる』
あまりにも重い言葉。
誰も返せない。
その時。
塔全体が激しく揺れた。
ズズズズズ……!!
天井から黒い液体が落ちる。
壁中の目が、一斉にこちらを見た。
『急げ』
『急げ』
『主が目覚める』
レインは《アークヘリオン》を握り締める。
「……行くぞ」
全員が頷いた。
塔内部を駆け上がる。
だが。
進むほど、侵食が濃くなっていた。
空間が歪む。
重力がおかしい。
階段が途中で捻じ曲がっている。
ミナが顔をしかめた。
「酔いそう……」
セリアも汗を流している。
「空間法則そのものが侵食されてる」
リシアが小さく呟く。
「向こう側に近づいてる……」
その時。
前方の空間が裂けた。
ズルリ。
そこから現れたのは――。
“騎士”だった。
黒い鎧。
巨大な槍。
顔はない。
代わりに、赤い目だけが浮かんでいる。
そして。
一体ではない。
十体。
二十体。
廊下を埋め尽くしていた。
エルドが剣を握る。
『……守護騎士』
「知ってるのか?」
『門の主直属の兵』
最悪だった。
普通の侵食体とは格が違う。
騎士たちが、一斉に槍を構える。
『排除』
瞬間。
空間を裂く突撃。
「速ッ!?」
レインは咄嗟に受け止める。
ガギィィィィン!!
重い。
片腕が痺れる。
「ぐっ……!」
しかも。
後ろから別の槍。
ミナが叫ぶ。
「レイン後ろ!!」
キィィィィン!!
セリアの氷壁がギリギリで防ぐ。
だが。
バキィィィン!!
一撃で砕かれた。
「はぁ!?」
セリアが目を見開く。
「硬すぎる……!」
エルドが前へ出る。
『下がってください』
漆黒の剣が唸る。
ズガァァァン!!
一体を両断。
だが。
切断された騎士が、黒い霧になって再生する。
ミナが悲鳴を上げた。
「もう嫌なんだけどこの塔!!」
レインは舌打ちする。
「核を壊さないと無限再生か……!」
その時。
ネアが騎士たちを見て、震えた。
「……嘘」
「どうした?」
「この人たち……」
ネアの顔が青ざめる。
「元、人間だ」
空気が凍った。
騎士たちの動きが、一瞬だけ止まる。
その隙に。
レインは兜を斬り飛ばした。
中にあったのは。
崩れた顔。
だが。
確かに人間だった。
王国騎士団の紋章が見える。
「……ッ」
セリアが息を呑む。
騎士たちは、侵食されている。
完全に。
それでも。
微かに苦しそうな声が漏れた。
『……ころ……して』
ミナの顔が青ざめる。
「そんな……」
レインは拳を握った。
助けられない。
もう戻れない。
その現実が重い。
だが。
騎士たちは止まらない。
『排除』
『主を守れ』
槍の群れが迫る。
レインは目を閉じる。
そして。
静かに剣を構えた。
「……楽にしてやる」
蒼黒の光が溢れる。
【王権術式 起動】
【《終律解放》】
巨大な魔法陣が展開された。
騎士たちが突撃してくる。
その瞬間。
レインは一歩踏み込んだ。
「――《終律閃》」
蒼黒の斬撃が、廊下全体を走り抜けた。
世界が静止する。
次の瞬間。
黒騎士たちが、一斉に崩れ落ちた。
静寂。
騎士たちの体が、光になって消えていく。
最後に。
一人の騎士が、微かに笑った気がした。
『……ありがとう』
レインは黙って剣を下ろす。
胸が重い。
だが。
止まれない。
その時。
塔の最上階から、再び“気配”が降りてきた。
圧倒的な威圧。
世界そのものが軋む。
そして。
声が響く。
『継承者』
低い声。
『よく来た』
塔の奥。
巨大な扉が、ゆっくり開き始めた。




