王都ルクセリア
三日後。
王国最大都市――ルクセリア王都。
その巨大な城壁が、地平線の先に見えた。
「……でっか」
ミナが素直に呟く。
白亜の城壁。
空へ伸びる尖塔。
無数の建物。
辺境村アルスとは比べものにならない規模だった。
だが。
近づくにつれ、違和感が強くなる。
人が少ない。
いや。
避難しているのだ。
街道には大量の荷馬車。
泣いている子供。
怪我人。
そして。
王都の上空には、小さな黒い霧が漂っていた。
「……侵食が始まってる」
セリアが険しい顔で呟く。
騎士は悔しそうに拳を握った。
「三日前までは普通だったんだ」
「黒い塔が出てから変わったのか?」
「ああ」
騎士は頷く。
「地下から突然出現した」
リシアの表情が暗くなる。
「……塔型侵食」
「知ってるのか?」
「昔、資料で見た」
リシアは震える声で続ける。
「“門”を開くための前段階」
空気が凍る。
「塔が完成した時、世界外と繋がるって……」
ミナが青ざめた。
「それ、かなりヤバくない!?」
「かなりどころじゃない」
セリアが即答する。
「最悪、この国が消える」
静寂。
だが。
レインは前を見る。
城門が近づいていた。
その時。
城壁の上から怒声が飛ぶ。
「止まれ!!」
無数の弓。
魔導砲。
王国騎士団。
完全武装だった。
空気が張り詰める。
騎士が前へ出た。
「待て! 彼らは――」
だが。
「動くな!!」
別の騎士が叫ぶ。
その目には恐怖が浮かんでいた。
「黒い紋章……継承者だろ!」
周囲がざわつく。
リシアが反射的に後ろへ下がる。
過去の記憶。
追われ続けた日々。
恐怖が蘇る。
レインは前へ出た。
「敵じゃない」
「信用できるか!!」
騎士たちが武器を向ける。
「継承者が現れてから王都はこうなったんだぞ!」
怒り。
恐怖。
混乱。
その感情が伝わってくる。
レインは少し黙る。
確かに彼らからすれば当然だった。
その時。
空気が変わった。
ドクン。
嫌な脈動。
全員が王都の中心を見る。
そこには。
巨大な黒い塔が立っていた。
王城より高い。
空へ突き刺さるような異形の塔。
表面には無数の赤い目。
見ているだけで頭が痛くなる。
「……ッ」
レインの頭に警告が鳴る。
【高濃度侵食反応】
【第三継承者 接近】
次の瞬間。
塔の最上部で、黒い炎が爆発した。
ズガァァァァァァァン!!
空が揺れる。
そして。
炎の中から、一人の少女が現れた。
長い黒髪。
黒い炎。
そして。
金色の瞳。
レインは息を呑む。
その瞳。
終焉王と同じ色だった。
少女がこちらを見る。
距離は遠い。
なのに。
目が合った気がした。
瞬間。
少女の表情が歪む。
『――見つけた』
頭の中へ、直接声が響いた。
次の瞬間。
黒い炎が空を裂いた。
「なっ――」
超高速。
一瞬で城壁目前まで迫る。
騎士たちが絶叫する。
「防御ぉぉぉ!!」
だが間に合わない。
レインは即座に《アークヘリオン》を抜いた。
蒼黒の斬撃。
黒炎と激突。
ドォォォォォォォォン!!
爆炎。
衝撃波で城壁が揺れる。
煙の中。
一人の少女が立っていた。
黒い炎を纏いながら。
金色の瞳で、真っ直ぐレインを見ている。
「……やっと会えた」
静かな声。
だが。
その魔力は、今までの継承者とは比較にならなかった。
【侵食率:不明】
【測定不能】
ゼノスの声が低く響く。
『……最悪だ』
レインの額に汗が流れる。
「何が分かった」
『あの娘』
短い沈黙。
『既に“向こう側”と繋がっている』




