第二の継承者
朝だった。
辺境村アルスに、久しぶりの穏やかな風が吹いている。
壊れた外壁。
抉れた地面。
戦いの跡はまだ残っていたが、それでも村人たちは生きていた。
「レイン! そっち持って!」
「お、おう!」
レインは木材を抱えながら走る。
昨日の戦いから一夜。
村は総出で復旧作業をしていた。
ミナは相変わらず元気だ。
「ほらもっと急ぐ!」
「人使い荒いな!?」
「昨日世界救ったんだからそれくらいできるでしょ!」
「理不尽だろ!」
村人たちが笑う。
昨日までの絶望が嘘みたいだった。
その光景を少し離れた場所から、セリアが静かに見ている。
「……変わった」
彼女は小さく呟いた。
昨日までのレインなら、自分一人で抱え込んでいた。
だが今は違う。
ちゃんと笑っている。
その時。
『羨ましい』
終焉王の最後の言葉が、ふと脳裏をよぎる。
レインは空を見上げた。
青空。
黒月は消えている。
だが。
終わったわけじゃない。
「……王都か」
昨夜聞こえた声。
“次の継承者が目覚めた”。
その言葉が頭から離れない。
その時。
ガルドが近づいてきた。
「行くんだろ?」
レインは少し黙った後、頷く。
「……うん」
ガルドは鼻を鳴らす。
「だろうな」
「止めないのか?」
「止めても行くだろ、お前」
「……まぁ」
ガルドは笑う。
「だったら胸張って行け」
大きな手が、レインの頭を乱暴に撫でた。
「帰ってこいよ」
その言葉に、レインは少し目を見開く。
そして。
「……うん」
しっかり頷いた。
三日後。
村の外。
石畳の街道。
旅支度を終えたレインたちは、王都へ向かおうとしていた。
「本当に行くんだなぁ……」
ミナが伸びをする。
背中には大量の荷物。
「楽しみ!」
「お前ちょっと旅行気分だろ」
「半分くらいは」
「半分は!?」
セリアが溜息をつく。
「王都はそんな甘い場所じゃない」
「分かってるってー」
だが。
セリア自身も少し緊張していた。
“次の継承者”。
それが何を意味するのか。
嫌な予感しかしない。
その時。
後ろから足音がした。
『お待ちください』
レインが振り向く。
そこにはエルドが立っていた。
以前のボロボロな鎧ではない。
蒼黒の紋様が刻まれた、新たな騎士鎧。
終焉王の力を一部受け継いだ証。
「エルド」
『私も同行いたします』
「いや、まあそうだろうなとは思ったけど」
エルドは跪く。
『我が王をお守りするのが、騎士の務めです』
「だから王って呼ぶのやめろって……」
ミナがニヤニヤする。
「いやー、王様だって」
「茶化すな!」
セリアは額を押さえた。
「……先が思いやられる」
その時。
空気が揺れた。
全員の表情が変わる。
レインの頭に、警告が浮かぶ。
【高濃度魔力反応 接近】
「ッ!」
次の瞬間。
空間が裂けた。
黒い亀裂。
そこから、一人の少女が落ちてくる。
「えっ――」
ドサッ!!
街道へ倒れ込む少女。
銀色の髪。
赤い瞳。
年齢はレインたちと同じくらい。
だが。
その体から、異常な魔力が漏れていた。
セリアが目を見開く。
「……嘘」
少女の右手には、黒い紋章。
継承者の証。
レインのものと酷似している。
【第二継承者を確認】
少女は苦しそうに呼吸しながら、レインを見た。
赤い瞳が震える。
「……見つけた」
その瞬間。
少女の背後の空間が、再び裂けた。
大量の黒い手。
無数の赤い瞳。
そして。
聞き覚えのある声。
『逃がさない』
世界外の存在だった。
少女が震える声で叫ぶ。
「逃げて……!」
だが遅い。
黒い手が、一斉にこちらへ伸びる。
レインは即座に《アークヘリオン》を抜いた。
蒼黒の光が走る。
「全員、下がれ!!」
新たな戦いが、始まった。




