世界の終わりと、その先
黒い世界が広がる。
空が消えた。
大地も。
光も。
全てが、終焉王の魔力に呑み込まれていく。
残ったのは、ただ黒。
その中心で。
終焉王だけが静かに立っていた。
【終焉権能:《世界終幕》】
レインの全身に警告が走る。
【危険】
【危険】
【回避不能】
だが。
レインは逃げなかった。
《アークヘリオン》を握る手に、ミナの温もりが残っている。
セリアの言葉。
エルドの忠誠。
ガルドたち村のみんな。
全部。
胸の中にあった。
『……君は優しい』
終焉王が静かに言う。
『でも、優しさだけじゃ救えない』
「知ってる」
レインは答えた。
「きっとこれから、間違える」
終焉王の瞳が揺れる。
「誰かを救えなくて、後悔もする」
怖い。
未来なんて分からない。
でも。
「それでも俺は、諦めたくない」
蒼黒の光が溢れる。
「一人じゃ無理でも」
後ろを見る。
ミナ。
セリア。
エルド。
みんなが立っている。
「今度は、ちゃんと頼る」
その瞬間。
終焉王が、初めて目を見開いた。
長い沈黙。
やがて。
彼は、小さく笑った。
『……負けたな』
黒い世界が揺れる。
終焉王は《アークヘリオン》によく似た剣を掲げた。
『なら、来い』
終焉の魔力が爆発する。
空間が崩壊する。
レインも剣を構えた。
【王権同期率:100%】
【《終律形態》完全解放】
蒼黒の翼が広がる。
終焉王と、全く同じ姿。
だが。
瞳だけが違った。
終焉王の瞳は絶望。
レインの瞳は希望。
次の瞬間。
二人は同時に踏み込んだ。
世界が消える速度。
剣と剣が激突する。
キィィィィィィィン――!!
音が消えた。
時間すら止まる。
レインは叫ぶ。
「うおおおおおおおおッ!!」
終焉王も叫ぶ。
『ああああああああッ!!』
蒼黒と漆黒。
二つの光が衝突する。
空間が砕ける。
世界が悲鳴を上げる。
だが。
レインは止まらない。
守りたい。
その想いだけで、前へ出る。
終焉王の瞳が揺れる。
そこに映っていたのは。
かつての自分が、失ったもの。
仲間。
希望。
未来。
『……羨ましい』
終焉王が呟く。
その瞬間。
レインの剣が、終焉王の剣を弾いた。
「ッ!」
終焉王の体勢が崩れる。
レインは最後の力で《アークヘリオン》を振り抜いた。
「終われぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
蒼黒の一閃。
世界を裂く光。
そして。
終焉王の体が、静かに斬られた。
時間が止まる。
黒い世界に、ひびが入る。
終焉王は呆然と、自分の胸を見る。
そこには蒼黒の光。
やがて。
彼は、優しく笑った。
『……できたじゃないか』
その声は、もう絶望していなかった。
終焉王の体が、光へ変わっていく。
『ありがとう』
レインは息を呑む。
終焉王は最後に空を見上げた。
『今度は』
静かな声。
『世界を、好きになってくれ』
そして。
光となって消えた。
黒い世界が崩壊する。
空が戻る。
風が吹く。
森の匂い。
夜の空気。
元の世界だ。
空の巨大な赤い瞳たちが、苦しそうに歪む。
『嘘だ』
『終焉王が』
『消えた?』
黒い亀裂が閉じ始める。
世界外の存在たちが叫ぶ。
『まだ終わらない』
『また会おう』
『継承者』
最後に。
一番巨大な赤い瞳が、静かにレインを見た。
『今度は、どこまで耐えられるかな』
そして。
亀裂は閉じた。
静寂。
夜空には、普通の月だけが浮かんでいた。
レインは膝をつく。
「……終わった」
その瞬間。
「レイーーーーン!!」
ミナが飛びついてきた。
「ぐぇっ!?」
「生きてるぅぅぅ!!」
「く、苦しい……!」
セリアが少し呆れた顔で近づいてくる。
「……本当に、規格外」
でも。
その口元は少し笑っていた。
エルドは静かに跪く。
『お見事でした、我が王』
「王はやめろって……」
レインは苦笑する。
だが。
空を見上げる。
まだ終わっていない。
黒月。
継承者。
世界外の存在。
謎は山ほど残っている。
でも。
今は少しだけ。
未来を信じられる気がした。
その時。
レインの頭に、静かな声が響く。
『――王都へ来い』
知らない声。
だが。
圧倒的な力を感じる。
『次の継承者が、目覚めた』
レインの瞳が揺れる。
物語は、まだ始まったばかりだった。




