再会
『リユニオン計画、完了』
ゼノスの声が響いた。
その瞬間だった。
世界全体を包み込むような光が広がる。
眩しい。
だが、不思議と目を閉じたくなるような光ではなかった。
温かい。
どこか懐かしい。
長い旅の果てにようやく帰ってきたような、そんな感覚を伴う光だった。
レインは思わず空を見上げる。
崩壊していた空が止まっていた。
裂け目も広がらない。
砕けかけていた大地も、その動きを止めている。
世界の終わりが、一瞬だけ静止したのだ。
ゼノスの表示が次々と変化していく。
『統合作業開始』
『地下世界との接続確認』
『天界層との接続確認』
『管理者領域との接続確認』
『世界外縁部との接続確認』
『終焉領域との接続確認』
無数の光の線が空へ伸びていく。
地下世界から。
天界層から。
塔から。
世界の外側から。
そして原初の終焉と無限の彼方から。
それぞれの光が一つの場所へ向かっていた。
世界の中心。
レインたちのいる場所へ。
「来るぞ」
E-0が低く呟く。
誰も返事をしなかった。
全員が見ていたからだ。
光が集まっていく先を。
そして、その中心で何が起ころうとしているのかを。
レインの身体が淡く光り始める。
「レイン!」
ミナが声を上げる。
「大丈夫だ」
そう答えたものの、正直なところ何が起きているのか分からない。
痛みはない。
苦しさもない。
ただ、何かが流れ込んでくる。
膨大な記憶。
膨大な感情。
数え切れないほどの人生。
知らない景色。
知らない空。
知らない人々。
終わった世界の記憶だった。
それだけではない。
地下世界で生きてきた人々の願い。
天界層で戦い続けた者たちの想い。
管理者たちの責任。
原初の終焉の孤独。
無限の彼方の空虚。
その全てが流れ込んでくる。
レインは膝をついた。
「ぐっ……!」
重い。
あまりにも重い。
一人で抱えられる量ではない。
だが、その瞬間。
別の光が現れる。
ミナだった。
彼女の身体から伸びた光がレインへ繋がる。
「一人で抱え込まない」
いつもの口調だった。
まるで当たり前のことを言うように。
「半分持つ」
「半分って……」
「細かいことは気にしない」
その直後。
リシアの光も繋がる。
アヤも。
男も。
第八席も。
第三管理者も。
E-0も。
終わった世界の人々も。
次々と光が集まってくる。
それはまるで巨大な星座だった。
一人一人は小さな光だ。
だが、繋がれば夜空を埋め尽くすほど大きな輝きになる。
その光景を見た瞬間。
レインは理解した。
リユニオン。
再会。
再統合。
この計画の本当の意味を。
世界を一つにすることではなかった。
バラバラになっていた想いを繋ぎ直すことだったのだ。
その時だった。
無限の彼方の中心にある小さな光が急激に大きくなる。
ドクン。
鼓動が響く。
ドクン。
さらに強く。
ドクン。
そして。
巨大な存在の中心から、一人の少年が現れた。
全員が息を呑む。
年齢は十歳ほどだろうか。
白い髪。
白い瞳。
真っ白な服。
どこか原初の終焉によく似ていた。
だが、決定的に違う。
その表情には感情があった。
戸惑い。
不安。
そして好奇心。
少年は周囲を見回した。
初めて世界を見る子供のように。
「ここが……」
静かな声。
「未来……?」
誰も答えられなかった。
E-マイナス1ですら目を見開いている。
「まさか……」
銀色の瞳が震える。
「本体……」
少年は首を傾げた。
「本体?」
その仕草は、本当に普通の子供そのものだった。
世界を滅ぼしてきた存在には見えない。
むしろ迷子の子供のようだった。
レインはゆっくり立ち上がる。
身体はまだ光っている。
だが、不思議と恐怖はなかった。
少年がこちらを見る。
二人の視線が交わる。
しばらく沈黙が続いた。
そして少年は言った。
「君たちが教えてくれたんだよね」
「何を?」
レインが尋ねる。
少年は少し考えてから答えた。
「未来」
風が吹く。
「僕は知らなかった」
白い瞳が揺れる。
「終わりしか知らなかったから」
その声には後悔が混じっていた。
数え切れないほどの世界を終わらせてきた。
だが、それは悪意ではなかった。
本当に知らなかったのだ。
未来というものを。
だから終わらせ続けた。
終わりの先を知らないまま。
その時。
原初の終焉が少年の隣へ歩いていく。
白い巨人だった身体は少しずつ縮小し、人と同じくらいの大きさになっていた。
顔のなかった存在に、薄く輪郭が生まれている。
『私はお前の一部だった』
静かな声。
少年は頷く。
「うん」
『だが今は違う』
風が吹く。
『私は知りたい』
少年が少し笑う。
「僕も」
二人は空を見上げた。
その光景を見て、誰もが思った。
終焉は消えたのではない。
変わったのだ。
理解によって。
出会いによって。
未来を知ることで。
その時だった。
ゼノスの表示が再び赤く変化する。
全員の表情が引き締まる。
何か問題が起きたのか。
だが、表示された文字を見た瞬間。
誰もが固まった。
『統合作業』
一拍。
『完了率、九十九パーセント』
静寂。
レインが眉をひそめる。
「待て」
嫌な予感がした。
「百パーセントじゃないのか」
ゼノスは答えない。
代わりに空中へ新たな文字が浮かび上がる。
『不足要素を確認』
全員が息を呑む。
そして。
次の瞬間。
そこに表示された言葉を見て、レインの心臓が止まりそうになった。
『第七席』
世界が静まり返った。




