世界の外側
静寂。
誰も言葉を発せなかった。
『世界の外側』
設計図に浮かぶ四文字。
それは場所の名前ですらない。
概念だった。
少なくとも。
今までの常識では。
ミナが最初に口を開く。
「どこ?」
当然の疑問だった。
レインも答えられない。
第八席も。
第三管理者も。
誰も知らない。
そして。
それが異常だった。
管理者ですら知らない場所。
そんなものが存在するのか。
その時。
E-マイナス1が笑った。
「なるほど」
全員が振り向く。
銀色の瞳。
終焉因子の中心に立つ男。
「最後の鍵はそこか」
静寂。
E-0が眉をひそめる。
「知っているのか」
E-マイナス1は頷いた。
「もちろん」
風が吹く。
「私がいた場所だから」
世界が静まり返った。
第三管理者が息を呑む。
「まさか……」
E-マイナス1は空を見る。
崩れ始めた空。
割れた雲。
消えかけた世界。
そして。
静かに語り始めた。
「世界の外側とは」
一拍。
「終わった世界が流れ着く場所」
誰も理解できない。
だが。
なぜか寒気がした。
その言葉だけで。
E-マイナス1は続ける。
「生き物も」
「文明も」
「歴史も」
静寂。
「終われば流れていく」
風が吹く。
「全部」
その時。
レインの脳裏に映像が流れる。
知らない景色。
無数の空。
無数の大地。
そして。
崩壊した世界の残骸。
星。
塔。
都市。
文明。
すべてが海のような場所を漂っている。
終わった世界の墓場。
それが。
世界の外側だった。
ミナが青ざめる。
「怖っ」
非常に率直な感想だった。
誰も否定できない。
怖い。
本当に。
怖い。
E-0が低く呟く。
「だから生き残ったのか」
E-マイナス1は頷く。
「そう」
静寂。
「私は消えた」
その声には嘘がない。
「でも終わらなかった」
銀色の瞳が揺れる。
「だからあそこへ落ちた」
終わったはずなのに終われなかった存在。
それがE-マイナス1。
だから終焉因子と繋がっている。
だから世界の終わりを知っている。
全部が繋がった。
その時。
設計図が新たな情報を表示する。
『リユニオン計画』
『最終鍵保管者』
全員が見る。
文字がゆっくり浮かび上がる。
そして。
そこに記された名前に。
全員が凍り付いた。
『E-マイナス1』
静寂。
ミナが固まる。
リシアも。
アヤも。
第三管理者も。
第八席も。
そして。
レインも。
E-マイナス1本人が一番驚いていた。
「……は?」
初めてだった。
この存在が本気で動揺したのは。
設計図は続く。
『第七席は世界の外側へ一度だけ到達した』
静寂。
レインの頭に激痛が走る。
記憶。
忘れていた記憶。
最も深い場所。
封印の底。
そこから何かが浮かび上がる。
三百年前。
世界分割の直前。
第七席だった自分。
たった一度だけ。
世界の外側へ行っていた。
そして。
そこで。
E-マイナス1と会っていた。
記憶の中のE-マイナス1は今より若い。
終わった世界の海。
崩壊した塔の上。
二人は話している。
『なぜ終わらない』
E-マイナス1が聞く。
第七席は笑う。
『終わりたくないから』
E-マイナス1は理解できない顔をする。
その時と同じだ。
今と同じ。
何も変わっていない。
そして。
記憶の中の第七席は言った。
『もし未来で困ったら』
風が吹く。
『力を貸して』
E-マイナス1は呆れた顔をした。
『未来?』
そして。
『そんなもの来ない』
そう答えた。
だが。
第七席は笑ったままだった。
『来るよ』
記憶が終わる。
レインは顔を上げる。
E-マイナス1も黙っていた。
彼も思い出している。
あの日の会話を。
静寂。
そして。
銀色の瞳の男は。
数百年ぶりに。
少しだけ困った顔をした。
「……あいつ」
風が吹く。
「そこまで先を読んでいたのか」
終焉因子が揺れる。
世界が崩れる。
残り時間は減り続ける。
それでも。
初めて。
終わりの象徴だった存在の心が。
わずかに揺らぎ始めていた。




