終律形態
《終律形態》。
その言葉が頭に浮かんだ瞬間、世界の色が変わった。
音が遠くなる。
空気の流れ。
魔力の揺れ。
空間の歪み。
全部が見えていた。
レインの髪が、蒼黒い光を帯びる。
瞳には淡い金色が混じっていた。
《アークヘリオン》は形を変え、長大な黒銀の剣となっている。
剣身には、無数の蒼い紋様。
まるで星空のようだった。
セリアが息を呑む。
「……魔力が、別次元」
周囲の侵食体たちが震えている。
恐怖しているのだ。
王の力に。
だがレインは静かだった。
怒りに呑まれていない。
憎しみに支配されてもいない。
ただ。
守るために、剣を握っていた。
巨大な赤い瞳が楽しそうに笑う。
『面白いね』
黒い腕が動く。
空間を潰しながら、こちらへ迫る。
だが。
今のレインには見えていた。
【世界外干渉解析】
【対応可能】
レインは一歩踏み出す。
その瞬間。
地面が消えた。
爆発的な加速。
空気が遅れて弾ける。
「消え――」
セリアが言い終わる前に。
レインは巨大な腕の目前へ到達していた。
《アークヘリオン》を振り抜く。
「――斬れろぉぉッ!!」
蒼黒の斬撃。
世界そのものを裂く一閃。
ズガァァァァァァァァン!!
巨大な腕が、肘から切断された。
『……あれ?』
赤い瞳が驚く。
切断された腕が落下し、大地を砕く。
衝撃で森が吹き飛んだ。
だが。
レインは止まらない。
空中を蹴り、さらに接近。
巨大な赤い瞳を睨む。
『へぇ』
赤い瞳が細められる。
『本当に変わったんだ』
「……黙れ」
レインの周囲で蒼黒の魔力が渦を巻く。
「お前が何者か知らない。でも」
剣を構える。
「これ以上、誰も傷つけさせない」
その瞬間。
巨大な瞳の周囲に、無数の赤い目が開いた。
空間の奥。
黒月の向こう側。
そこに、“同じ存在”が大量にいる。
セリアの顔が青ざめる。
「嘘……一体じゃないの……!?」
世界が震える。
赤い瞳たちが、一斉に笑った。
『面白い』
『面白い』
『今度はどこまで壊れるのかな』
悪意の波。
圧倒的な絶望。
だがレインは剣を握り締めた。
怖い。
それでも。
逃げない。
『王』
エルドが静かに跪く。
『ご命令を』
レインは一瞬だけ目を閉じる。
頭の中で、終焉王の記憶が囁く。
かつての自分。
世界を救えなかった王。
だが。
今は違う。
レインはゆっくり目を開いた。
「……守る」
蒼黒の瞳が輝く。
「全部」
その言葉。
終焉王の影が、僅かに笑った気がした。
【王権承認】
【第一眷属 接続】
エルドの鎧に蒼黒の光が走る。
砕けていた鎧が再生していく。
失われた右腕も戻る。
漆黒だった剣が、蒼い紋様を帯びた。
エルドが目を見開く。
『……王』
「行くぞ、エルド」
『御意』
その瞬間。
巨大な赤い瞳たちが、一斉に黒い光を放った。
世界を呑み込む破滅の奔流。
だが。
レインは《アークヘリオン》を掲げる。
魔法陣が空一面へ展開された。
【王権術式 起動】
【《終律障界》展開】
蒼黒の結界が空を覆う。
次の瞬間。
破滅の光と結界が衝突した。
ドォォォォォォォォン!!
天地が揺れる。
空が割れる。
村人たちは立っていられない。
それほどの衝撃。
だが。
結界は砕けない。
レインは歯を食いしばる。
「ぐっ……!」
重い。
圧倒的な力。
それでも。
押し返す。
『……本気なんだ』
赤い瞳が呟く。
そして。
初めて、少しだけ真剣な声になった。
『なら』
黒い亀裂の奥。
巨大な扉のようなものが、ゆっくり開き始める。
その隙間から。
さらに巨大な“何か”が見えた。
都市ほどもある黒い輪。
無数の赤い目。
そして。
鎖に繋がれた、巨大な玉座。
セリアが震える声を漏らす。
「……黒月の、中心……」




