興味
黒い穴の奥。
“上”からの視線が変わった。
さっきまでの観測とは違う。
もっと近い。
もっと生々しい。
まるで珍しい玩具を見つけたみたいな、“興味”だった。
男の顔が青ざめる。
「最悪だ……」
「一番ダメなやつだ」
ミナが叫ぶ。
「だから何なのそれ!?」
男は窓の外を睨んだまま答える。
「無視されるならまだいい」
「でも“上”に興味を持たれた存在は、だいたい壊れる」
リシアが震える。
「壊れるって……」
その瞬間。
窓の外に、“目”が現れた。
列車と並走している。
巨大。
白い。
瞳孔がない。
それがガラス越しにレインを見つめていた。
ミナが悲鳴を呑み込む。
「うそ……」
車掌が静かに告げる。
『外部観測増加』
『通常航路維持不能』
列車が激しく揺れる。
空間そのものが歪み始めていた。
窓の外の景色が、現実とノイズを繰り返す。
街。
墓地。
知らない空間。
巨大な構造物。
全部が一瞬ごとに切り替わる。
ネアが小さく呟く。
「……航路が侵食されてる」
レインは剣を握ったまま黙っていた。
終律剣は半分だけ実体化している。
黒い刃は不安定で、輪郭が揺れていた。
ゼノスが低く告げる。
『限定解放継続中』
『ただし現在、“レイン”の境界が薄くなっています』
ミナがレインを見る。
そこにいる。
なのに。
瞬きをするたび、少しだけ“別人”に見える。
怖かった。
最初に森で会った頃のレインと、今のレインが重ならない。
でも。
だからこそ、ミナは手を離さなかった。
その時。
車内の顔なし乗客たちが、一斉に立ち上がる。
ギギギ……。
関節が軋む。
番号03が、ノイズ混じりに呟いた。
『観測接続』
『深度上昇』
『――来る』
直後。
天井が裂けた。
バキィィン!!
白い指が車内へ突き刺さる。
巨大な目付きの指。
車両を掴み潰そうとする。
リシアが叫ぶ。
「きゃああっ!!」
男が怒鳴る。
「伏せろ!!」
列車が軋む。
だが。
車掌は逃げなかった。
顔のない車掌は、静かにその指を見上げる。
『運行妨害を確認』
『排除を開始します』
その瞬間。
車掌の制服の奥から、“大量の腕”が現れた。
白い手。
黒い手。
機械みたいな腕。
人間じゃない。
ミナが完全に固まる。
「え……」
腕が一斉に動く。
空間に線が走る。
次の瞬間。
突き刺さった巨大な指が、細切れになって崩れた。
ズシャァァッ!!
だが血は出ない。
代わりに、“黒い文字列”が散った。
男が息を呑む。
「列車側も化け物かよ……」
車掌は静かに告げる。
『乗客保護は最優先事項です』
その瞬間。
窓の外の巨大な目が、“笑った”。
口はない。
なのに確実に、笑われたと分かる。
レインの剣が微かに震える。
ゼノスが警告する。
『危険』
『相手は現在、レインへ強い関心を示しています』
ミナが怒鳴る。
「だからその興味をなくしてよ!!」
しかし。
黒い穴の奥から、新たな“腕”が伸び始める。
一つじゃない。
十。
二十。
数えきれない。
それら全てが、列車へ向かっていた。
車掌が初めて沈黙する。
そして小さく呟いた。
『……運行継続、困難』




