外殻墓地
列車の扉が、ゆっくり開く。
ギィィ……。
冷たい風が車内へ流れ込んできた。
だがその風は普通じゃない。
“音が混じっている”。
遠くの話し声。
泣き声。
誰かの笑い声。
全部が風と一緒に流れていた。
ミナが顔をしかめる。
「……何この音」
男の表情が険しくなる。
「聞き続けるな」
「引っ張られる」
扉の向こうは、灰色の荒野だった。
空はない。
代わりに巨大な天井構造が広がっている。
そこから無数のケーブルみたいなものが垂れ下がっていた。
そして地面には――
“建物の残骸”が大量に刺さっている。
塔。
橋。
街灯。
砕けた駅。
全部が墓標みたいに地面へ突き刺さっていた。
リシアが呆然と呟く。
「ここ……街が落ちてる……?」
男は低く答える。
「落ちた世界の残骸だ」
「だから“外殻墓地”」
ミナが引きつる。
「名前の時点で嫌な予感しかしないんだけど」
車掌が静かに告げる。
『停車時間は五分です』
『長時間滞在は推奨されません』
その瞬間。
奥の座席にいた番号03の乗客が、ゆっくり立ち上がる。
顔はない。
だが明確にレインを見ている。
『……降りる』
男の顔色が変わった。
「おい待て」
番号03は扉の外へ歩いていく。
すると他の顔なし乗客たちも、少しずつ立ち上がり始める。
ミナが青ざめる。
「なんか連鎖してない!?」
セリアが静かに言う。
「この区画に反応してるのね」
ネアが小さく呟く。
「……帰巣」
レインは扉の外を見る。
遠く。
墓地の中心あたり。
巨大な“輪”みたいな構造物が見えていた。
壊れている。
だが今も微かに回転している。
リングが脈打つ。
バチッ。
レインが眉をひそめる。
男がそれに気づく。
「……反応したのか?」
レインは短く答える。
「呼ばれてる感じがする」
静寂。
男の顔から血の気が引いた。
「最悪だ」
ミナが即座に聞く。
「何が!?」
男は外の巨大な輪を見る。
「あれ、“外殻接続機”だ」
「世界の外側を繋ぐための装置」
リシアが小さく震える。
「また変なの出てきた……」
その時だった。
風の中の声が、急にはっきり聞こえる。
『……戻れ』
『まだ終わってない』
『観測を継続する』
ミナが耳を塞ぐ。
「やめて……!」
直後。
墓地の地面が揺れた。
ゴゴゴ……。
建物の残骸が軋む。
遠くで何か巨大なものが起き上がる。
リシアが息を呑む。
「……あれ」
墓標のように刺さっていた“高層ビル”が、ゆっくり持ち上がる。
いや。
ビルじゃない。
“人型”。
建物の残骸を纏った巨人が、墓地の中から立ち上がっていた。
無数の窓。
崩れた道路。
折れた鉄塔。
それら全部で構成された巨大存在。
ミナの声が震える。
「また都市サイズ!?」
男は後退りながら呟く。
「墓守……」
「なんで起きるんだよ……」
その瞬間。
番号03の乗客が、その巨人へ向かって歩き出す。
そして初めて、感情みたいな声を漏らした。
『……帰還』
巨人の頭部が、ゆっくりこちらを向く。
無数の窓の中で、ひとつだけ赤い光が灯る。
同時に。
レインのリングが、今までで最も激しく暴走した。
バチバチバチバチッ!!
黒いノイズが首元から顔へ広がる。
男が目を見開く。
「おい、まずいぞ――」
ゼノスが、突然完全復旧する。
『警告』
『外殻接続機との共鳴を確認』
『レインの封印状態が限界に到達しています』




