車内ルール
赤い文字は、壁の上でゆっくり点滅していた。
【ルール違反者は、降車処理を行います】
ミナが顔を引きつらせる。
「降車って……」
男は即答した。
「死ぬよりマシな場合と、そうじゃない場合がある」
ミナが叫ぶ。
「どっちなの!?」
男は答えなかった。
それが一番嫌な答えだった。
車内には静かな揺れだけが響いている。
顔なし乗客たちは全員レインを見ていた。
目がないのに。
確実に。
リシアが小さく震える。
「なんでレインばっかり……」
セリアは低く呟く。
「終律に反応してる」
ネアも静かに頷いた。
「……覚えてる」
その瞬間。
一番奥に立っていた乗客が、一歩前へ出る。
ギ……。
関節の音がおかしい。
長い間動いていなかった機械みたいだった。
ミナが後退る。
「来る……!」
車掌が静かに告げる。
『車内での争闘は禁止されています』
『違反時は即時降車処理を実施します』
男が小声で言う。
「絶対戦うな」
レインは眉をひそめる。
「向こうが来てる」
「でもここじゃ、“反撃した側”も違反扱いになる」
静寂。
理不尽だった。
この世界はずっとそうだ。
強いだけじゃ生き残れない。
ルールを知らなければ消える。
乗客はゆっくりレインへ近づく。
顔のない頭部。
黒く擦れたコート。
そして胸元には、かすかに数字が残っていた。
【03】
ネアが小さく反応する。
「……番号」
乗客がレインの前で止まる。
そしてノイズ混じりに呟く。
『観測外……生存……?』
『ありえない』
レインは黙って見返す。
リングが脈打つ。
バチッ。
乗客の体が小さく震えた。
『……終律反応確認』
その瞬間。
車内放送が鳴る。
『警告』
『乗客間の未許可接触を確認』
赤いランプが点灯する。
ミナが青ざめる。
「え、ちょっと待って」
「何もしてなくない!?」
車掌がゆっくりこちらを向く。
『違反確認まで残り十秒』
男が舌打ちする。
「下がれ!!」
レインが一歩引く。
だが乗客も同時に前へ出る。
距離が縮まる。
赤いランプが加速するように点滅した。
『九』
『八』
『七』
ミナが混乱する。
「どうすればいいのこれ!?」
セリアが静かに言う。
「接触判定を切るしかない」
男が即座に理解した。
「視線だ!」
「全員、レインを見るな!!」
リシアが息を呑む。
「え……?」
だが男は本気だった。
「この列車、“認識”で距離を測ってる!!」
ミナが慌てて目を逸らす。
リシアも、ネアも視線を外す。
セリアだけが静かに目を閉じた。
その瞬間。
レインの存在感が、一気に薄れる。
リングが黒く光る。
乗客の動きが止まった。
『……認識低下』
カウントが止まる。
『違反状態解除を確認』
『運行を継続します』
静寂。
ミナがゆっくり息を吐く。
「……はぁっ……」
だが。
レインの輪郭が、さらに薄くなっていた。
リシアが不安そうに呟く。
「レイン……?」
そこにいる。
見えている。
でも、“遠い”。
男が顔をしかめる。
「存在抑制が進みすぎてる……」
その瞬間。
列車が急停止した。
ゴンッ!!
全員の体が揺れる。
灯りが一瞬消える。
車内放送がノイズ混じりに響いた。
『到着』
『未登録停車区画』
『――外殻墓地』




