第31話 キャンプ場①
今回予約したマロニエ神沼は、この春リニューアルされたばかりの施設らしい。広々とした広場と濃い緑の木々たちの間を風が吹き抜ける、気持ちのよい場所だった。
木造の管理棟は高い天井で開放感があり、かなり広い売店が併設されている。中には薪や地元の野菜などのほかに、ちょっとした菓子や地元の酒、土産によさそうな工芸品や雑貨なども置かれていた。さらにその奥には温泉があり、これらはキャンプ場利用者でなくても利用できるらしい。受付を挟んで反対側には地元の特産品を使ったカフェと蕎麦屋もあり、遅めの朝食やランチが楽しめるとのことだ。
管理棟の前にはキャンプファイヤーができそうな広場があり、フリーサイト、オートサイト、それから俺たちが泊まる予定のコテージがある。
売店に夢中になっている親らを放置することにした俺たちは、とりあえず車から荷物を下ろしてコテージに運ぶことにした。
「夏の匂いがするな」
誰に言うでもなく呟き、俺は木々の濃い緑に目を細めた。
フリーサイトにもオートサイトにもテントが立ち並んでるし、初心者らしきグループが苦労しながらタープ等を張っているのも見える。
はじめての場所なのにどこか懐かしい気持ちなるのは、先に見えるコテージが白いドーム型だからかもしれない。もちろんリュシアーナのものとは大きさも作りも異なる。でもどこか似た雰囲気であることに、今は何か意味があるように思えてしまうのだ。
「わあ、素敵! 写真で見たよりずっといい!」
コテージのドアを開けた亜希がはしゃいだ声をあげた。
亜希と兄貴の後に続いて室内に入った俺も、「たしかに」と、荷物を運びこんで中を確かめる。
コテージは広いデッキの上にあり、ドーム型の寝室とコンテナ風のダイニングキッチンに別れていて、どちらもエアコンも設置されている。その間はフリースペースになっていて、リクライニングチェアを出してくつろいだり、バーベキューなどの食事スペースにもできそうだ。
ダイニングキッチンには小さな冷蔵庫や簡単なキッチン設備がついている。もし雨が降ってこのダイニングでの食事になったとしても、がっかりすることはなさそうだ。
寝室には厚いマットレスが用意されていて寝心地がよさそうだし、大きな窓からキャンプ場裏の緑が広がっているのが見え、非日常を感じた。
「これは女子が好きなやつだな」
兄貴がクスッと笑いながら、はしゃぐ亜希の頭をクシャっとなでる。
「うん! 絶対!」
力強く頷いた亜希が、そこでくるりと振り向いた。
「ねえ諒ちゃん。真珠さんが戻ってきたらさ、家族別じゃなくて女子部屋男子部屋になると思うんだよね」
自然な形でそう変わるだろうという意味だろうか。亜希は至極真面目な顔でそう言うと、いたずらっぽく首をかしげて笑った。
「そうなったら寂しい?」
(同じ部屋が良かったよね、ということか?)
俺はその光景をちらっと考える。あまりにも自然に真珠さんがここにいる姿が浮かび、ゆっくりと首を振った。
「いや? そこに彼女がいるだけで最高だよ」
朝も夜も、手の届く場所に真珠さんがいる。
それだけで他に望むものは何もないんだ。
「そっか、そうだよね。真珠さん――じゃなくて、えっと、まこっちゃん? と、私とママたちでの女子会、楽しみだなぁ」
亜希が室内の設備を試しながら当たり前みたいにそう言うので、俺と兄貴は思わず顔を見合わせる。まるで彼女が遅れてここに来る、そんな約束をしているみたいじゃないか。
(どうも亜希の中では、このキャンプの間に真珠さんが戻ってくることが確定事項らしいな)
昨日までの俺なら、彼女が俺を励まそうと思ってるんだと思っただろうが。
「そうだな」
のんびりと同意した俺に、亜希はにっこりと笑った。
実際、このキャンプ場に足を踏み入れてからその期待が大きくなっている。
どこか懐かしい風景もそうだが、さっきクォンタムの気配を感じたときのように、何か違う空気を感じ始めていた。
本当だったら夕食までの自由時間を使って、市内を車で回ってみようかと思っていたのだ。何かしら、真珠に関するヒントを見つけられたらと思っていたから。
(でも、ここには何かある)
もちろん、今までのように期待しては裏切られるものなのかもしれない。でもただの希望や期待とは違うものを、どうしても否定できない。
そんな予感めいたソワソワした気持ちを感じ取ったのだろうか。兄貴が後ろから俺の後頭部を掴むようにして、乱暴に数度かガシガシと撫でてきた。
「な、なんだよ突然」
子どもの頃みたいだと驚く俺に、兄貴は口の端を上げた。
「残りはやっておくから、おまえは散歩でもしてきたらどうだ?」
「散歩?」
いたずらっぽく葉を見せる兄貴を見た瞬間、俺は小さく息を飲んだ。兄貴の姿にニクスが重なって見えたのだ。
癖のない長い銀髪。涼やかな目元の美丈夫。めったに笑顔を見せないせいで、陰で氷の騎士団長と言われていたニクス。そんな彼と兄貴は、見た目も性格も全然似ていない。だが――――
『ただ考えていても仕方がないだろう。気になることがあるなら、とりあえず動け』
なぜか今、ニクスにそう言われたような気がした。
兄貴の隣で「そうしなよ」と笑顔で手を振る亜希。
そんな二人の姿を改めてみた瞬間、言いようのない気持ちで胸がいっぱいになって驚いた。そんな自分の反応に心の中で首をかしげならがも、知らず笑みがこぼれる。
兄貴と亜希は、いつだって俺の絶対的な味方だった。子どものころから俺の「救い」でもあった。二人のそばに生まれてくることができたのは、真珠さんとは違う意味で運命だったんじゃないか。
ふと、そんなことを考えてしまったのだ。
「なんだよ。二人の時間を邪魔するなってこと?」
思い浮かんだことが恥ずかしく、わざと揶揄えば、二人はしれっと「そういうこと」と答えるので、大笑いしてしまう。
「了解。そうする!」
肩を震わせながらスニーカーを履く俺の背中に、二人が「いってらっしゃい」という声が重なった。
長くなりすぎたので2回に分けてしまいました。まだ書いてる途中なので明日投稿します。
クロスオーバーは次回で。誰も楽しみにしてなかったらごめんなさい(* ᴗ ᴗ)⁾⁾(私は楽しいのです♪)。




