第30話 神沼市
大変お待たせしてすみません。ようやく続きが書けました。
旅行回です。
なお、29話の次に入っていた「幕間マリリアートの心」はバランスを考え、順番をもっと前に入れ替えました。
「兄貴、ナビがこの次で下りろって言ってるけど、もうひとつ先のインターで下りればいいんだよな?」
「ああ。都賀はスルーで神沼で下りるらしいぞ」
「そうそう。キャンプ場までは都賀で下りたほうが早いんだけどね」
「了解」
今年のキャンプは車二台で行くことになった。子供のころは大きなバンを借りて一代で行ったりもしたが、今回は親チームと子チームに分かれ、向こうは亜希の親父さんが、こちらはジャンケンで行きが俺、帰りは兄貴が運転することにした。
東北道を北上し、亜希の言う通り神沼インターチェンジで下りる。キャンプ場のチェックアウトまでは時間があるため、まずは観光や買い物を楽しむ予定だ。
まずは餃子専門店で餃子をテイクアウトする。親父の同僚が地元で勧められた店らしい。なにやら大きなタレの付いた冷凍餃子はひと箱三十個も入ってるそうだが、それを二箱、親父たちが喜々としてクーラーボックスに入れる。
「夕飯のバーベキューに餃子とビールだ!」
そう言って一番はしゃいでいたのは親父ーズではなく、兄貴と亜希だったりするんだけどな。明日は明日で、餃子が有名な隣の市までまで足を伸ばし、食べ比べを計画しているらしい。最近兄貴が餃子づくりにはまっているから、色々研究するらしい。そのうち皮からつくりそうな勢いだな。
「で、次は山車を見に行くんだっけ?」
事前に聞いていた予定を思い出しながら尋ねると、兄貴といちゃついていた亜希が「ちがうよ」と言った。
「山車じゃなくて屋台ね」
神沼観光と言っても、亜希によれば聖地巡礼というやつになるらしい。例の女優をしている友達が主演したドラマのロケ地だったらしく、原作ファンの母さんたちも楽しみにしている。
屋台は小さな公園内の、白い蔵のような建物の中にあった。
「すごい彫刻ねぇ」
ガラス越しに見えるそれに、母さんたちが感嘆の声を上げる。屋台は思ったよりも大きく、車輪の付いた豪華な神輿という印象だった。
「秋祭りにはこういう屋台がたくさん出て、皆で乗ったり引いたりするんだよね」
「一度生で見てみたいな」
「ねえ。次はお祭りに合わせて来ましょうか」
「いいけど、混むんじゃないか?」
「それも楽しいんじゃない」
駐車場も施設も無料ということで驚いたが、予想に反しほかに客もいない為、みんなが好き好きにしゃべる。
旅行前に件のドラマを見ていてよかったと思っていると、予習に見ておけと言った本人である亜希が、「ドラマ、見ておいてよかったでしょ?」と笑った。
「そうだな」
映画で見た屋台を引く風景や祭囃子、それを楽しむ人々の様子が自然と浮かんできた。日本の祭りはリュシアーナの祭りとは全く違うが、人々の笑顔は同じなんだよな。そんな当たり前のことがすとんと胸の中に落ちる。
小さな神輿を担いで歩く祭りは地元でも見たことがあるが、こんなに大きい屋台などが出る祭りを生で見たことはない。他に客がいないのは、この土地では普通過ぎて珍しくもないのか。
想像以上の大きさと装飾に感心しながら、俺たちは亜希や母さんたちの説明に頷いていた。
(真珠さんもお祭りに参加したことがあるのかな?)
彼女の故郷がこの神沼だとは限らないのに、今、不思議なほど真珠を近く感じる。同時に、王妃の護衛として側にいた祭りの景色も重なって見える気がした。
『お祭りっていいわよねぇ』
奉納の舞を舞った後にそう言って笑ったマリリアート様が、次いで呟いた言葉をふいに思い出したのだ。
『屋台の焼きそばが食べたいな』
思い出した光景につい吹き出しかけ、みんなから変な目で見られ、慌てて咳払いでごまかす。家族しかいなくてよかった。
マリリアート様の言っていた屋台は、目の前のこれじゃなくて、祭りでよく見る出店のことだろう。
リュシアーナの祭りでは、各々が食事を用意するピクニックに近い感じになる。当然王宮からも料理人が腕を振るった料理が用意されていたし、マリリアート様もおいしそうに食べていた。
でも、あまり自分の希望を言わないマリリアート様の願いだ。せっかくなら叶えたい。しかし焼きそばが何なのか分からなかった俺たちは、純粋に神の世界の食べ物だと思いこんだんだ。
代わりに、砂糖を雲のようにする雲飴という砂糖菓子をクォンタムと作って差し上げると、王妃は「綿あめだ!」と、子供のように笑ってくれたっけ。
偶然とはいえ、現代にあるものを作って差し上げることができてよかった。――なぜかついさっきあった出来事のようにそう思い、俺は軽く肩をすくめた。
これまで何度も、ジェイの意識と繋がったのではという期待を持っては裏切られてきたんだ。これもきっと、ただの前世の記憶に過ぎないのだろう。
屋台見物の後は、映画のデートシーンで使われた天寿山公園に向かった。
小さな山を登っていくと小さな遊園地がある。こちらも入園無料らしい。
「こじんまりして、かわいい遊園地ねぇ」
母さんが観覧車を見上げてニコニコと笑うと、亜希と兄貴が料金表を見て驚いたような声をあげた。
「わ、見てこれ。本当に乗り物が五十円?!」
「えっ、大人も同じ料金? すごいな」
まさかというような料金に笑ってしまうが、遊園地というより、公園の中にある遊具コーナーと言った感じなんだろうな。アトラクションと呼べるものも、小さな観覧車と汽車型の乗り物や回転遊具があるくらいだ。
親父たちが「昭和にタイムスリップしたみたいだな」と笑った。
周りは小さな子供を連れた親子連れが多い。それでも亜希が観覧車に乗ろうと兄貴を連れて行き、母さんたちもそれに続く。父さんたちは缶コーヒー片手に休憩すると言うので、俺は一人で公園をぶらつくことにした。
駐車場にうちを含めた県ナンバーの車が多かったのは、何度か映画やドラマのロケ地になっていることもあるんだろうけど、この安さも理由の一つなのかもしれない。
軽く歩いただけで一周できてしまうくらいの広さだが、親父たちが休憩している東屋まで戻ると、街が一望出来て気持ちがよかった。
これなら俺も観覧車に乗ればよかったかな。なんと亜希達は、続けて三回も乗ってるらしい。よっぽど気に入ったんだな?
最近買いなおしたサングラスをかけて目を閉じると、ふと、リュシアーナの残滓を感じた気がした。
(クォンタム、いるのか?)
そう。かなり薄くなっているが、これはクォンタムの気配だ。アレクに近い空気も感じるのは気のせいかもしれないが。
しかし、いくら探ってもそれ以上のものは感じられない。
ただ、マリリアート様が舞った後のような清涼な力を感じ、大きく深呼吸をする。ここに来たのは正解だったと思った。
「諒、カフェの予約時間が近いから移動しよう」
「わかった」
戻ってきた兄貴の呼びかけに頷き、サングラスをシャツにかけなおす。最後にもう一度公園の中を見回し、心の中で聖獣に声をかけた。
(クォンタム。お前、絶対ここに来たことがあるだろう?)
マリリアート様にせっせと不思議なものを運んでいた聖獣は、時も世界も超えていく。自分がもう一度世界を超えるためには、きっと聖獣の力が必要なのだろう。そして多分、神沼こそが真珠の故郷なのだと、妙に確信めいた考えが胸の奥に広がった。
無粋にもメタ的なことを言ってしまいますと,この公園は「月光の舞姫と白の騎士 ~異なる世界と私と私~」でローラが躍った場所だったりします。
クロスオーバーが好きな方は、次回もにやりとするかも?
お楽しみに。




