第12話 月曜日、将軍との決着前編
お待たせしました。だいぶ執筆に苦労しました。そして、すみません。前書きで謝るのは悪いと思いますが謝らせてください。最終話が長くなってしまったので前購後編に分けさせてもらうことにしました。なるべく次回を最終回にできるようにします。……中編は作らないように頑張ります。一応。
将軍。
俺達の学校にはこう呼ばれる教師がいる。彼は野球部顧問である。そして、校庭の支配者でもある。さらに蛇足的に加えると生徒指導の担当でもある。
ただこの場合は野球部の顧問としてが一番の問題だ。野球部のせいでサッカー部、陸上部は校庭を使うことができずに追い出されるのが日常と化していた。サッカー部は一応練習もすることができたが野球部の試合があるとかで土日は河川敷に追放されてしまっていた。陸上部は校庭の隅っこで細々と短距離だけが走っている。長距離に至っては、外周を走ることしかできない。ロングジョグ以外の練習をすることができないありさまだ。
ただ、一応は暗黙の了解というか協定というようなものは存在しており決まった曜日は校庭を使えることとなっていた。だが、それも今では死文化だ。そんなものは関係なくなってしまっている。弱小野球部がこのまま校庭の支配者となるのは気に食わない。
なぜ、野球だけが愛されるのか。サッカーは、そして陸上というスポーツは無視されるべきものなのか。俺達のもやる権利がある。校庭を使う権利がある。走りたい。ボールを蹴りたい。跳びたい。試合をしたい。
だからこそそんな中、ついに俺達はかの将軍に対して抵抗することを決めたのだった。
この物語は将軍こと大泉先生を追放──とはいかないものの校庭部活の尊重を要求するための一高校生運動史である。
◇◇◇
放課後。
ついに勝負の時がやってきた。
グラウンドに出るとすでに野球部はいた。そして、野球部側のベンチには偉そうに腕を組んでいる将軍が立っていた。
あの偉そうにしている態度も今日で終わりだ。
円陣を組む。全員で肩と肩を組み合う。そして、油井先輩が代表して俺達に挨拶をする。
「今日ですべてが終わりだ。絶対に勝つぞ! いいか!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
全員の気合が入った声がとどろく。
円陣をやめて顔をあげると、野球部が若干というかかなり引いている表情をしていた。だが、関係ない。お前らにとってはその程度のことだとしても俺達、陸上部、サッカー部、そしてラグビー部にとってはかなり大事なことなんだ。
お前らみたいに恵まれている者には強いられている者の気持ちが分かるはずがない。そして、将軍は特に俺達の気持ちが分かるはずなどない。
絶対に勝ってやる。
◇◇◇
「それでは、野球部対グラウンド系部活連合による試合を始めます。それでは、両者礼」
『お願いしますっ!』
「では、両者の代表者は前に出てきてじゃんけんをしてください。勝った方が先行とします」
審判である江本が試合を仕切る。
野球部からの代表は野球部部長の浅田克己。それに対してこちら側の代表はもちろん油井先輩であった。
「油井先輩。あなたがこのようなことをするとは驚きですよ。それでも元野球部なんですか?」
「その言葉の意味がよくわからんな。俺は将軍によって無理やり部活をやめさせられた人間だ。むしろ恨みがないという方がおかしいだろ」
「確かにそうですね。しかし、先輩がいるからといって手加減などしませんよ」
「ああ、全力で来い。ではいくぞ」
『じゃんけんぽんっ!』
そう言って浅田はグー、油井先輩はチョキを出した。
勝ちは野球部、負けは俺達、すなわち野球部が先攻で、俺達が後攻となった。
俺達はグローブを手にはめてそれぞれの守備位置に走った。俺の守備するポジションはサードだった。センターとか陸上部だし走れるからという理由で最初決まったのだが、俺がやるよりも元野球部かつ元陸上部の清田がやった方がよほどいいだろうとのことになった。
「しまっていこうー!」
投手の油井先輩が声を上げる。野球部がピッチャーをやるのが筋である。ちなみに捕手は、油井先輩の大親友で中学時代は野球部、高校では3年の引退までずっと数学部でパソコンを使ってゲームを作っていたという東瀬藤十郎先輩が務める。さっきから、東瀬先輩は油井先輩の投げる剛速球を何とも感じずに平然ととっている。野球部経験者は本当にすごい……感動した。
「流石だな……油井先輩は昔からあんな感じだよ」
清田が言う。
「そうなのか? 油井先輩がすごいって話は前に聞いたけどどれぐらいすごいんだ?」
「ああ、知らなかったのか。油井先輩は中学時代は俺と同じ地区の湯岩中学校の野球部に所属していたんだが、当時から剛速球の使い手として有名で高校は群馬県高校野球の名門私立高校桐生ヶ丘高校から誘われながらも学力を優先してここ中川高校に行くことにしたんだ。だからこそあの人は誰よりも野球というスポーツにも愛着を持っている」
知らなかった。油井先輩がそこまですごい人であったなんて。
だからこそ油井先輩が将軍を恨んでいる理由が分かった気がする。勉強もしたいし野球もしたい。文武両道。それがこの中川高校の校訓だ。それを体現してきたのが油井先輩である気がした。
これは、俺達のグラウンドのこともあるが油井先輩のためにも勝ちたい、そう思えるようになってきた。
「なら、余計勝たないといけなくなったな」
「ああ、まあ俺としてはあの人と一緒のチームで野球をする機会にめぐり合わせることができるとは思ってもいなかったけどな」
清田は言う。目は輝いている。遊んでいる気なのか。一応、グラウンドの使用権を巡っての勝負のはずで真剣勝負のはずなんだけどな。清田その辺忘れていないよな、な。
ちょっと、俺は心配になりかけていたが、どうにかなるだろう……そんな気がした。たぶん。
◇◇◇
ここで守備の配置をわかりやすくするために、俺達のチームのメンバーについて紹介したいと思う。
投手油井幸太郎。元野球部。
捕手東瀬藤十郎。元数学部。
センター清田秀。陸上部。
ファースト長島平治。陸上部。
セカンド田澤明彦。陸上部。
ライト沖宗弥。サッカー部。
レフト潮崎翔琉。サッカー部。
ショート安濃吹鳴。ラグビー部。
そして、最後にサード俺こと川波重。陸上部。
こんなところだろうか、ちなみにベンチには3人陸上部、サッカー部、ラグビー部から1人ずついる。
また、ルール説明だが特別ルールで5回までしかやらない。野球部にハンデはない。ほかは、基本的には普通の野球とルールは変わらない。俺自身はそこまで野球のルールに詳しくはなかったので、今日の昼休みなどを使って清田から簡単なルールについては学んでおいた。しかし、難しいルールまではさすがに分からない。
◇◇◇
そして、試合が始まる。
野球部チームの一番打者は1年生の湾内という丸坊主の男だった。がたいもかなり良かった。結構飛ぶのだろう。清田がそれを警戒してかなり後ろの方へ下がっていた。
「いきまーす」
油井先輩がボールを投げる。
ボールはまっすぐキャッチャーのグローブに収まった。
「ストライクッ!」
審判(野球部マネージャー)が大きな声で言う。
1ストライクだ。まずまずの始まりなのではないか。しかし、最初見送るというパターンもあるので油断はまだまだできない。何で試合は始まったばかりなのだから。
油井先輩が2球目を投げる。
ボールはみごといいコントロールでストライクゾーンへと向かっていく。
しかし、打者湾内もそのボールに反応してバットを思いっきり振る。しかし、湾内のバッドにボールが当たろうとしたすぐ手前でボールは落ちた。
「フォ、フォーク!」
そう、油井先輩はフォークボールを投げたのだった。油井先輩の手をよく見ると手はフォークの投げ方をしていた。ボールを指と指の間に挟んでいた。
「ストライクッ!」
審判が大きな声で叫ぶ。
「よしっ!」
俺はガッツポーズをする。まだ、ストライク2だし、試合は始まったばっかであるのだが、うれしい。
『やったああああああ』
ベンチや、観客からも喜びの声が上がる。
まだ、試合が始まったばっかだというのに盛り上がりがすごい。
ふと、俺は将軍のいる方を見る。将軍の顔は見るからに不機嫌であった。どうだ。ざまあ、俺はうれしかった。
その後、1回の表は守りきった。
そして、いよいよ俺達の攻撃の番となった。
俺達の1番はサッカー部の沖であった。
沖宗弥は、サッカー部のキャプテンである。結構なイケメンだ。噂では一時期二股していたという話が出るぐらいモテている。俺からしたらとてもうらやましい。そんな奴がバッターボックスに立つ。すると、どうなるだろうか。
やはりイケメンだから女子からもてはやされる──なんて甘いことは起きない。
「おい、野球部には負けてほしいが沖は例外だ。三振しろっ!」
「イケメンがミスる姿見たいぜえ!」
『三振! 三振!』
外野からは、三振コールがとどろいている。そりゃあそうだ。みなさんも忘れていたかもしれないが、ここ中川高校は男子校である。ゆえにここで試合の観戦をしているのは在校生だけつまりは、イケメンに対して嫉妬している残念な男子高生しかいないんだ。だから、沖が出てきたらブーイングのあらしだとわかりきったことだ。
「うっせええ! お前ら俺が三振しなかったら土下座な!」
沖も負けずに応戦する。
っていうか、お前の敵は野球部じゃないのか? なぜに観戦している人相手にむきになってるんだ。
「ストライクッ!」
『よっしゃああああああああああああああ!』
1球目はストライクだった。
しかもボールは、フォークボール。野球部の投手川崎もなかなかやる。
あれを打つのは至難の業だ。そして、応援うるさいぞ。まあ、俺もチームメイトでなかったら嫉妬してもっとやれとでも言っていたかもしれんが……。
「ストライクッ!」
2球目もストライクだった。今度はストレートだった。ただ、球威がかなりあった。今何キロ出ていたんだ。そう思えるぐらい俺には速く感じた。あれを打つことができるのか。俺は恐ろしくなった。
3球目。
「今度こそ打ってやる!」
沖は気合が入っている。なんだかんだ言って沖は運動神経がいい。この状況をどうにかしてくれるはずだ。
次のボールはフォークか、それともストレートか。どっちが来るかわからない。それは沖も警戒しているはずだ。
川崎がボールを手から放した。投げた。
「はああああああああああああ」
ボールがバットの目の前に来た。思いっきりバットを振る。
こ、これは──
「ストライクッ! バッターアウト!」
沖のバットは無情にも空を切っただけだった。
審判はストライクバッターアウトとコールする。
沖はバットをからぶっただけだった。
「く、くそおおおおおおおおおおおおおお!」
沖は吠えた。そして、
『よしゃああああああああああああああああああああ!』
からぶった沖以上に観客が騒いだ。その声はこの中川高校が住宅街の中央に位置しているため近隣住民からうるさいと苦情を出されるぐらい空に響き渡った。
沖の狙いは確かにあっていた。さっきのボールについていけていた。俺も実際にそう思った。しかし、あの川崎はなかなかやる。今のはストレートでもフォークでもなかった。カーブだった。沖の打つ手前で若干だがボールの軌道がずれていた。川崎はかなりの曲者だ。
1回の表2人目の打者田澤、そして3人目の打者潮崎はともに三振をして俺達の攻撃はすんなり終わってしまった。
続いて2回。ここもお互いが全力を出して守り攻めた。その結果、お互いが1点も取ることができず0-0のスコアで3回へと試合は移った。




