Dogging;4
みとはながどうじにできて
在りと荒ゆる青の殻、薄れて黒へと続いても、境は賢しく逆にあり、越えては賽ぞ投げられた。何も無き空にあるものは、誰そ彼時の影霞。
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レーダーから数多あった光点が追跡を止めた。常に鳴っていたアラートも急にその音を止ませ、彼は逆に戸惑った程だった。何も無い。何もいない。正にこれが空なのだとも言うように。そうして、それらの赤文字の列が止む頃に彼は気付く。彼の乗る機体の速度がゼロを示していることに。なんだこれは。ここまで張っていた気が少し弛んだ直後にそれに気付いた彼は焦りを覚え、エンジンを起動するように指示する。動かない。浮かぶのみだ。そうして、彼のバイザーに`言葉`が表示され始めた。
いいや、それは言語を示す文字列というよりも記号であり、絵であり、そうして何よりも意味そのものだった。だから、彼はそれの言わんとすることはくまなく理解出来た。
-こんにちわ-
視界に這える緑の文字列。
-初めまして。あなたのような`ヒト`が居てくれて、私たちはとても嬉しい-
それの違和感にすら気付かない程に。
-`ヒト`はどう在りたいのか、私たちは見たかった。
あなたのような`ヒト`がいてくれて、私たちはとても嬉しい-
その文字列は音を帯び耳に入り。
-どうあっても欲求を満たそうとする本能。必然を偶然と捉える理力。その最中にあり-
意味を伝え続ける。
-あなたのような`ヒト`がいるとは、面白い、`ヒト`には期待が持てる-
喜びと、或いは恐れを乗せながら。
-だから、これをあなたに差し上げよう。
どう使うかは`ヒト`に委ねよう。
けれど-
それは、警告以外のただ一つの意味も無かった。
-これはあなたのものだ。受け取ってくれ。ユウナギ=アシュレイ-
ただ、この柔らかい一つを除いて。
その言語が止むと、彼、ユウナギは自分が俯いていたこと、それから酷く疲れていることに気付いた。しかし疲れを払うように首を振ると、どうにか正面を見た。
そこには先ほどまでは見えなかった、白光を伴う何かが浮かんでいた。或いは多脚の、虫のように滑やかで、花のように命に溢れ、鳥のように全てを叩き、魚のように全てを掻く、何かだ。
-また会いましょう-
それは一言そう残すと、遥か頭上へとその光、身体のようにも見えるそれを一瞬で伸ばし。
そうして後に青い光の粒を残し、それは冗談のように消えた。
途端、機体に力が戻る。呆然となりながらもパイロットとしての冷静さでそれを隠し機体の状態をチェックする。
≪後部カーゴに10分前に比して約7キログラムの質量増加を確認≫
いつの間に。信じられなかったが、これが`贈り物`なのだろうか。
≪後部カーゴ内からシステム干渉。空域内の全無人機を掌握開始≫
バカな。そんなことが可能なはずが。
≪....comp.≫
無い。否定が脳で生まれるよりも早く、それは成された。
≪当機アルビノ2はこれより帰投する。全機エスコートせよ≫
バイザーの端にそれが示されると、レーダーにそれらが群れ始めるのが見え。
そうしてそれらの全てがユウナギの帰るべき方角へ、一斉に光を放った。或いは光が花の咲く様は、まるで夜明けのようだった。
それではじめがはじまった