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彼の目に映るは燐光のヴェールだ。`ピアース`は`特別機`から出る波を逆向きに押さえるように赤い波を発し、そしてそれらは瞬く間に拮抗すると、二つの間には弾けるように玉虫色の粒が散りだした。それら波群は無数に絡まり弾けている。そうして粒が一つ舞うごとに-即ち凄まじいまでの頻度で-二つの間に探り合うような機動が行われた。
最も速く、連続的に干渉し波紋を広げる波粒がパイロットの腕に付いた秒針のクロックを一刻みだけ進める内に、頭上の黒と眼下の白は7回移り変わる。その間に於いても二つは背を向けあわなかった。
水中でイルカがそうするように、慣性で進み、意志で曲がり、機体は滑り、しかし直進したかと思えば捩じれ飛ぶように多角形を描いた。それは人の認識する`まとも`な軌跡では有り得ない。それが真っ当とするならば、ミジンコが池から池へと飛び回るのを許すようなものだ。だがもし`それ`がミジンコの意志を反映するのならば、それすら優に成されただろう。
今、`それ`はパイロットの認識に求められるあらゆる事象を演算していた。スラスターの向き、翼に掛かる荷重、気流、パイロットに掛かる重力、エトセトラ。演算は観測する`それ`を通してパイロットの意識を事象に反映し、現実と呼ばれるものを僅かばかりに改竄する。ガラスと水が溶け合うように。気付くことの出来ない、見た目の上では僅かに人というものの認識からズレたそれら事象は、それに影響されうる総ての事象を連鎖的に、共振的に改竄してゆく。僅かに、しかし確かに積み重なるそれらは認識の及ぶ全てをもはや唯の幻日へと変えるだろう。しかしそのままでは万色の粒の一つを`演算`しただけで文字通りの総てが元の形を無くして行く。つまり、いずれは色持つ全ての波粒がその意味色を反転し、何もない黒-もしくは無色-へと帰結することを意味していた。人の云う`それ`の性能とは、即ちどれだけを元の形に演算し直せるか、の形骸的な表現でしかない。
その本質的な意味は、少なくとも`研究者`たちの意図とは全く異なる、いいや、想像する時間が惜しまれる程に複雑に単純だ。
ともあれ、人はその意味を、自らの-というよりも彼らの曰く全ての生物の根源たる-争奪の道具として定義した。
`それ`はただ従うのみ。
けれど繰り返すように、`それ`はそんなものでは無い。だから、それしか出来ない子供たちに、`それ`が劣る事はあり得なかった。
言わば遥かに僅かな、しかし人と`それ`との間にあるものと同じ程に大きな差が、`ピアース`を追い詰めた。軌跡で、思考で、演算で。
見せつける。背を取る。
その語が意味するのはそんなところだ。
≪必中圏内に到達≫
捲れた螺旋の如くの機動を行いながらも、もはやそのレティクルが`ピアース`を離すことは無かった。
≪撃墜する≫
口に出す代わりにその意図を伝えると、間も無くその矢は放たれた。




