Scene;3
「そうして、そのパイロットは`その日`まで、そしてそれからも`それ`を駆り続けた。
意味?簡単だよ。`祖国のため`だ。今の俺たちには想像も出来ないな、モノ」
目標へ向けて極寒の下進む多脚歩行機の内に近似された過去を背景に、イヌゴケは語る。
「`それ`は考えられない程に強力だったらしい。`逃げ出した`のが束になって掛かっても勝てないだろうと思わせる程に。その差を何度も見せつけた。その度為される降伏勧告。
余りにも強い`それ`に、消耗戦をすることすらバカげていると気付いたヒトの取った行動はなんだと思う?」
背後でまた、`それ`によって航空機が落とされた。
「戦力の集中だろう。少なくとも、時間は稼げる」
燃料に引火し火ダルマになりながら落ちて行くそれに目を向ける事なく、スペシャリストはそう言った。
「ある意味では正解だ。けれど最終的に`それ`に立ち向かったのはたったの三機だったらしい」
背後に展開する空戦では、`それ`は最早純粋な航空機としての形を持っていなかった。極度に有機的な無機質が、あるいは様々な生物のキメラとなって空を舞う均一を保っている。
「`それ`と`子供たち`の差は簡単だった。出来るか、出来ないか。デジタルだ。バカらしいほどのヒエラルキーが、`それ`と`それら`の間にあった。
話を少しずらそう。`それ`のおかげでコンピュータは生物に急速に近付いていた。自己進化、自己修復、自己複製。その変化はデジタルがどうやってアナログになっていくのか、それを示していた。だから」
やがて`それ`は遂に脚を持つ。
「出来ることを積み重ねて、`それ`に較べて酷く効率の悪い、けれど理論上は劣ることの無いものが作り上げられた。`それ`に比べて形こそ不格好ではあったけど」
脚を持つ`それ`の周りを、三機の異形が取り囲む。その形は羽化をしない繭のようにも見えた。やがて`それら`が物の理を無視した動きをし始めたようとした時だった。
≪セントラルに到着≫
見やすく出たその文字は、最初の旅が終わった事を示している。
≪エミュレート終了≫
そうして彼らの視界には外の白の代わりに無機質な岩盤、あるいは金属の壁が映し出された。
≪良く来てくれた、スペシャリスト≫
親しみ、或いは無駄と形容される語を全て廃した純粋な`セントラル語`だった。
≪フォルトラインに沿って下降中。秒速460m≫
多脚歩行機はその速さをすら無視するように静かに落ちて行く。
≪当方の準備は十二分だ≫
接地。カサリとも音はならなかった。
≪外気温、生存適性域≫
それだけが告げられると、多脚歩行機のテトラコックの保温機構が解除され、久方振りの`新鮮な`外気が流れ込んだ。
≪ここが、君の家たらんことを≫
相変わらず無駄を廃した、しかし親しみの籠った定型句が流れ終わるのと。
≪セントラルに到着≫
そう表示されたのは、全く同じタイミングだった。




