幕間 寝落ち
アリシアの手料理は今まで食べた料理の中で一番美味しかった。ヴィンセントとして食べた林檎のパイも美味しかったが、本当に料理上手だと思う。パンを焼きながら牛肉のシチューを煮込み、サラダを作る。手伝おうとしたが、かえって時間がかかるから今度お願いと言われてしまい、レグルスと風の車で遊んでいた。少し肩を落とすリヒトに、
「レグルスと遊んでくれると助かるのよ。調理は刃物や火を使うから危ないの」
と言われてホッとした。
食後、アリシアはレグルスと風呂に入り寝かしつけた。いつもより遅くまで起きていたこともあり、レグルスはすぐ眠りについたようだ。ここからは夫婦水入らずの時間だ。
「もう少し飲む?私、明日は休みなんだ」
「ああ」
食卓ではなく長椅子に二人並んで腰掛けると、肩と腰が触れ合う。触れ合った体温が心地良い。リヒトはアリシアの腰に腕を回した。
「レグルスはだいぶあなたに慣れて来たから、今度は一緒にお風呂に入って寝かしつけもやってみてね」
「どうやれば良いんだ?」
「そうね…一度三人でお風呂に入って…」
「ちょっと待て、一緒に?」
「夫婦だし問題ないでしょ。平民の家族はお湯が冷めると沸かし直すのが大変だから、子供が小さいうちは一緒に入るらしいわよ。使用人もいないし当然よね。うちは魔道具があるから沸かし直すのも簡単だけど…」
何だかアリシアが大胆だ。リヒトは少したじろいだ。何度も肌を合わせているが、風呂は明るいだろう。そんな明るいところで湯に一緒に浸かる?レグルスが居ても体が反応しそうだ。ちょっと待て、普通恥じらうのは女性の方なのでは?そんなことを考えていると、アリシアはリヒトの肩に頭を乗せて寄りかかった。
「今日ソニアがね、リヒトのことをろくでもない旦那って言っててね」
と、笑い出した。
「…神殿に着いた時に面と向かって言われたよ」
「前に私がそう言ったの」
「…実際そうだから反論出来ん」
アリシアはくすくすと笑っている。
スナイデル邸の離れでは、泣くことが多かったアリシアが、こんなに笑っている。可愛い、可愛いアリシア。これからはリヒトとしてずっと側にいられるのだ。こんなに幸せで良いのだろうか。もう二度と、悲しませない。ずっと笑顔でいて欲しい。リヒトは思わず抱き締めた。
ゆっくりと長椅子に押し倒して口付ける。
口付けを交わし合い、見つめ合い、明かりを消そうとしたその時、寝室からレグルスの泣き声が響いてきた。
二人目が合い、微妙な笑顔になった後、アリシアは、はいはいレグルス、お母さんはここですよと寝室に入って行った。
そわそわしながらアリシアを待つも、こちらに戻る気配がない。寝かしつけに時間がかかっているのだろうかと寝室を覗けば、アリシアはレグルスと一緒にぐっすりと眠っていた。
「…寝てる」
ポリポリと頭を掻きつつ、居間の明かりを消し、リヒトも二人が温めてくれた寝台に潜り込んだ。




