神話③
地の底は光溢れる緑の地に生まれ変わった。色とりどりの花が咲き、鳥や蝶が舞い歌う地になった。流れる水はどこまでも澄み、光を反射して輝いていた。
死んでもなお、苦しみ、恨み、後悔の念に苛まれる死者の魂は、弟神の慈しみの手で癒され清められた。地の底は安寧の地になったのだ。
地の底の変化は、大地の女神フィオレンツィアーナも敏感に感じ取っていた。地の底は自らの負の面でもあった。死してなお苦しみ踠く者は暗い地の底に堕ちていく。芽吹くことはなく、永遠とも思える時間を経て自我を失くし無になる。輪廻の輪から外れ、生まれ変わることはない。
「アルスラントニウス様、あなた様の弟神は地の底で和御霊となりました。地の底は光に満ち、死者は安らぎを得て新たな命を芽吹かせています」
「それは真か。あやつには荒々しい一面しかないと思っていたが…地の底で朽ち果て無となるはずが、死者に安寧をもたらすとは」
「地の底は私のはらの底でもあります。苦しむ魂を輪廻の輪に戻せず、心を痛めておりました。弟神と精霊の娘がそれを助けてくれました」
そこで、夫婦神は揃って地の底を訪れた。娘は夫婦神の姿を拝したことはなかったが、一目で高位の神だと分かった。娘は地に伏し尊崇の意を表した。
「面を上げよ。精霊の娘よ。弟と共に地の底を安寧の地に変えたこと、誠に大儀であった。弟はいずこか」
「あちらの大木の元で、苦しむ死者の魂を慰め癒しておられます」
娘は夫婦神を弟神の元へと導いた。そこには、夫婦神が見たことのない優しい表情で、手のひらの種と語り合う弟神の姿があった。黒ずんでいた種は艶々とした輝きを取り戻し、土に埋められると元気に芽を出した。
その光景に、フィオレンツィアーナは涙を流した。流した涙から花びらが舞い、弟神に降り注いだ。
兄神はその姿を見て頷き、弟神に名を返すと告げた。また精霊の娘には名を与え、神に列することとした。
弟神と精霊の娘は夫婦神に深く頭を垂れ、地の底を安寧の地として治め、守っていくことを約束した。
弟神の名はオルフェルトニウス。
その番の女神はフィオレシア。
死者に安寧をもたらす夫婦神として、人々から信仰を集める神となった。




