第八話 青い春を駆ける
剣技の試験が終わると、卒業まではあっという間だった。
秋の終わりから、アリシアはスナイデル邸に滞在することになり、冬季休暇は帰郷はしなかった。と言っても、北領は雪が深いため冬季は寮で過ごす生徒がほとんどだ。今年の冬は寮の食堂で会うこともない。アリシアが俺の前から居なくなるという事実を、否応無く突き付けられた。
…痛ぇ…
それは鋭い刃のようだった。
八歳からずっと一緒に育って来た。戦えない子供時代は炊き出しや後方支援の訓練、野営の方法、鏃や剣の研ぎ方などを共に学んだ。辺境を守護する領の貴族として共に研鑽を積んで来た。北領を守る仲間だし、夫婦になりたいと思っていた。うちの母のように、俺の子をたくさん産んで欲しかった。
花舞う春、卒業の日。
これが最後かと、アリシアの姿を目に焼き付ける。ふわりと香るアリシアの魔力。一生忘れない。
「アッシュ、元気でね」
「おう、お前もな、リア。社交界で舐められるなよ」
「それ一番不安だけど、頑張るわ」
握手を交わせばお互いに泣き笑いだ。この手を離したくないのに、手は自然と離れた。俺はいつからこんなに物分かりの良い男になったんだ。
結婚式は春の終わり、神託の降りた神殿で執り行われるという。いよいよ手の届かない存在になる。招待状は辺境伯家にも届いていたが、花嫁姿を見に行く勇気はない。
心配そうにしながらも、何も言わない父母は式に参列するため出立した。式の当日は遠巻きに見られ誰も話し掛けて来ない。何だよ。こんな時こそふざけてくれれば良いのに。気を遣われすぎて居た堪れなくなった俺は部屋に引っ込んだ。そんな中、祖父だけが、
「アッシュ、飲むか」
と言って酒を持って俺の部屋に入って来た。ノックもせずにずかずかと、遠慮のない様が返って嬉しかった。
ただ、祖父の持って来た酒はとにかく強かった。一発で酔っ払った俺は、ちょっと馬を飛ばして来ると言って夜を駆けた。
…クソ、これから初夜かよ!考えたくもねぇ!
こうなりゃ自棄だ。
俺は馬を飛ばし街へ向かった。
「え?お兄さんの好きな人、結婚しちゃったの?可哀想…」
気付けば、初めて行った街で、見知らぬ娘と飲んでいた。どこか別の領地のようだ。頭痛ぇ。馬に揺られて更に酔いが回ったようだ。
「お兄さん辛そうだし、あたしの店で休んでいかない?」
にこりと笑う娘。ぼったくりでも何でも良い。金ならあるし、腕には自信がある。酔っていても破落戸には負けないからな。俺は飲み屋の店主に金を渡して馬を預け、娘に手を引かれ歩いた。
「同伴でーす」
階段を上り入った部屋の照明は薄明かり、小ぶりなソファとテーブルがあり、衝立の後ろに寝台があった。
パタンと扉が閉まる。
娘が案内した店は娼館だった。
どうせ自棄糞なのだ。俺は初めて女を買った。




