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きみの頬をなでる風になれたら  作者: 朝倉いろは


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第六十八話 神託②

「おかぁちゃ?」

 言葉を出せない大人達にレグルスが声をかけ、四人はハッとして顔を見合わせた。

 ひとりでにペンが動き神の意思を記すとは聞いていたが、実際に目の当たりにしたのは初めてだ。神託はどの神殿に降りるか分からないため、神徒のフローリアでさえ、祭祀の際に一度見たきりだと言う。

「これは…どう解釈したら良いんだ?」

「そのままじゃないの?」

「そうだけど…」

「新たに記されたというよりは、正しく記されたという印象ね」

 と、フローリアが言う。元々降りている神託に書き加えるように記された神の意思。アリシアはその文字をじっと見つめていた。

「リア?大丈夫か?」

「え?ええ、大丈夫…」

「スナイデル公爵家子息はリヒトのこと、フィデール子爵家息女アリシアはザドキエル伯爵家の養女になった。死んだリーシュでなくあなたのことで間違いないと思うわ」

「フローリア様」

「良いの、あの子がいなくなってもう十年以上過ぎた。神の元で穏やかに暮らしていると思うわ」

 フローリアはレグルスをぎゅっと抱いたアリシアを、レグルスごと抱き締めた。

「おばあちゃ、くるし」

「あら、ごめんね」

 うふふと笑い、フローリアは真面目な顔になった。

「この神託については…アルメニア王国内全ての神殿で共有することになるわ。でもまずは、国王陛下に報告する義務があるの」

「はい」

「だけど…あなたの置かれた状況を鑑みれば、慎重にすべきとも思うわね」

「あまり時をかけるのも国王陛下や神殿には不信感を与えてしまうかも知れないな」

「このリヒトという男性は、出生を隠された双子の弟かも知れないんです」

「…そうなのね。双子の弟が神殿に預けられず、戸籍にも記されないことがないとは言えないから…その点が重い罪に問われることはないと思うけど、問題はあなたの死を偽装したことよね」

「ふん、ヴィンセントも覚悟の上だろ。罪と天秤にかけてアナベルを選んだんだ。あんな奴がどうなろうと知ったことじゃないね」

「アッシュ、神様が見てる。口が悪い」

「ありがとうアッシュ。代わりに悪口言ってくれるからスッキリしちゃう」

「悪口じゃねえよ。真っ当な意見だよ。フローリア様、近々スナイデル家のヴィンセントに会いに行く予定です。国王陛下への報告はそれまで待って頂けますか」

「分かったわ」


 アシュベルが不在の間、ルーシィはアリシアの自宅に滞在することになった。アリシアとはすっかり仲良くなり、オーグスの平民向け専門学校を一緒に見学したり料理や裁縫を習い、読み書きの練習をした。アリシアが仕事で不在の時には、ルーシィはレグルスと共に神殿で過ごした。神殿は行き場のない女性達の拠り所であり、彼女達の境遇は身につまされる思いがした。自分も親に売られ、春をひさぐことで生きてきた。その過去は消えない。借金を返し終えたことは自分にとって誇りに思えることだが…アリシアには言えないし、言うことでもないと思う。アシュベルが婚約者だとフローリアに紹介してくれたことは嬉しかった。だが、上位貴族であるアシュベルの家族が自分を認めるだろうか。黙っていても素性を改められれば分かることだ。不安はあるが、自分に出来ることをやるしかない。ああ…妾でも良いから一緒にいたいと願ったアナベルの気持ちが、今になって分かる。そんな気持ちも、アリシアを思えば言えるはずもなかった。


 数日後、王都のスナイデル邸に向かったアシュベルから手紙が届いた。

 リヒトは西の辺境エーデルハイドに向かい、消息が途絶えたという。ヴィンセントと共に探しに行くという内容だった。

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