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きみの頬をなでる風になれたら  作者: 朝倉いろは


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第六十六話 帰宅

 アリシアとレグルスは一度スナイデル邸に戻り馬を返した後、乗合い馬車でオーグスに帰ることにした。オーグスの自宅には厩がなく、預けるにも金がかかり、平民が馬を飼うことは難しいためだ。レグルスは馬から降りたくないと泣いたが、馬車に乗るのよと言えば目を輝かせ、乗り物に乗れることを喜んでいた。途中降りて宿に泊まることも嬉しかったようだ。ちょっとした親子旅行のようで、アリシアも楽しみながらの帰宅となった。

 家に帰れば、アシュベルとルーシィが出迎えてくれた。レグルスはアシュベルに飛び付き、早速肩車をねだった。

「お留守番ありがとう、ルーシィ。何も問題なかった?」

「あ、お皿を割っちゃったの…ごめんなさい」

 替わりにこれを買ったんだけど…と新しい皿を見せると、そんなの気にしなくて良いのにとアリシアは笑った。

「ザドキエル先生に、やっとレグルスを会わせることが出来て良かったわ。先生がいなかったら戸籍もなかったし、無事に生まれていたかどうかも分からないもの」

「先生も驚いただろうな。扉を開けたら死んだはずのアリシアが立ってるんだもんな」

「確かに…今考えると、怖いわ…」

 先生は私が死んだことをご存知だったから、さぞ驚かれたでしょうね…と、他人事のような表情で呟いた。

「リヒトは?てっきり一緒に帰って来るかと思ってたけど」

「古代魔法の解呪があるから、それが終わったら来ると思うわ。国王陛下のお立ち合いの元で解呪するんですって」

「古代魔法か。見たことねえな。俺も見たかったな」

「秘匿魔法らしいから、立会人も厳選するんじゃないかしら」

「へぇ、秘匿魔法とか格好良いな。炎の秘匿魔法とかあるのかな」

 アシュベルの目は少年のように輝いている。幼い頃、強力な魔法や魔獣相手に怯まず斬り込む騎士達を見た時と同じ、憧れの籠った目だ。彼は強いものが好きな根っからの武人なのだ。

「でもさ、あいつがこっち来てもあの容姿だろ?平民に紛れるの無理じゃね?」

「…そう思う?」

「どう見てもお貴族様だろ。あれじゃ汚ねぇ格好させてもバレるぞ」

「そんな人がこの町で働ける?なんか仕事しないと妻に働かせてダラダラしてるってヒモ扱いされるよ」

「この辺の人達は、私がフローリア様の娘だって知ってるから…訳ありの貴族が平民として暮らしてるって思ってるんだよね…あっ!」

「どうした?」

「そう言えば、前にレグルスは高貴な方のご落胤なんじゃない?って神殿の女の子に言われたことがあって…その時に夫がろくでなしだったって言っちゃったんだよね…」

「なんだ、間違いじゃねえだろ」

「今はともかく、ろくでもなかったのは確か」

「…それもそうね」

「今度あいつがお前に嘘をついたら、俺が締めてやるからな」

「うん、お願いするね」

「でも、ろくでもないヒモ夫が復縁を迫ってきたって思われて、神殿の女性達から追い出されるかも知れないよ…」

「むしろそれで良いだろ」

「そうならないように、うんと反省してる顔させとく」

 

 家主も帰って来たので、アシュベルとルーシィは今日から宿を取ると言う。学校はオーグス専門学校の家政科に決め、二月の入試を受けることにしたそうだ。アリシアと見学をしたことが決め手となったようだ。家も何軒か候補を見付けており、明日内見をして決めると言う。部屋を整えたら、アシュベルはタナトス領に帰り魔獣討伐に復帰する。いつもより長めの休暇だったが、エーデルハイドで翼を持つ魔獣や翼竜を討伐したので鈍ってはいないはずだ。

 

 四人で食卓を囲み、見送ると、レグルスは旅の疲れかすぐに寝てしまった。家の中は静けさに包まれ、何となく寂しさを感じるアリシアだった。

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