幕間 家路
アリシアの留守を預かるルーシィの元へ戻って来たアシュベルは、明かりが灯っていない家の鍵のかかった扉を前に焦りを隠せなかった。夕暮れの橙色を過ぎ、青みを帯びた夜の気配を纏い始めた空。ルーシィは不在のようだ。一体何処に…隣の家の住人に尋ねるも、今日は見かけていないので分からないと言う。ただ、数刻前に何かが割れる音がしたと…それを聞いたアシュベルの背中を冷や汗が流れた。
物盗りか人攫いか。焦るアシュベルは辺りを探し走った。無事でいて欲しい。その一心だった。
そうして乗合い馬車の停留所方面へと走っていた時、向かう先から歩いて来る愛しい人の姿を見付けた。
「アッシュ!おかえりなさい」
笑顔で手を振るルーシィを、走って来た勢いのまま抱き締めれば、腹の間でカチャンと鳴る音。
「あっ!またお皿が割れちゃう!」
「…皿?」
よくよく見れば、ルーシィは紙袋を抱えている。
「リーシュさんのお宅のお皿を落として割っちゃったの。それで、替わりのものを買いに行って…そしたら美味しそうなお菓子が売ってたからつい寄り道しちゃって
隣の住人が聞いた割れるような音は、ルーシィが落とした皿の音だったのか…アシュベルは胸を撫で下ろした。落ち着いて考えてみれば、物盗りや人攫いがご丁寧に鍵をかけて出るとも思えない。ただ、もうじき暗くなるというのに一人で出掛けるなんて…
「ここは夜の町とは違うから、暗くなる前に帰ってくれよ」
「なんで?」
「あの町は夜が昼みたいなもんだから女が一人で夜に歩いてても大丈夫だったけど、普通の町は人通りが少なくなるし危ないんだ」
「そうなんだ…ごめんなさい」
「この町は治安が良い方だけど、用心してくれ…部屋が真っ暗で心配した」
ルーシィから紙袋を受け取り、中身の無事を確かめて、手を繋いで家へと帰る道すがら、
「同じ家に帰るって良いなぁ」
と、ルーシィは笑った。
「なぁ、さっきのもう一回言って」
「え、なんだろう」
「…おかえりって」
「おかえりなさい」
そう言った後、えへへと笑うルーシィに
「ただいま」
と応えた後、手を引きながら早足になる。ガチャガチャともどかしげに鍵を開け、明かりもつけずに玄関で口付けた。
「クソ…ここじゃ出来ん」
「え?」
口付けながら、ルーシィの服の中に滑らせた手を引っ込めた。
「…アリシアに見られてる気がする」
「…ぷっ」
ルーシィは笑って、部屋の明かりを灯した。
「お腹空いてない?」
「そういや腹減ったな」
「あたしもご飯まだなんだ。一緒に食べよう。お昼に作ってたやつだけど、温めるね」
今日はね、パンを焼いてみたんだよ、とパン籠を見せてくれるルーシィは可愛過ぎて、アシュベルは早く家を決めようと心に決めた。




