↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの頬をなでる風になれたら  作者: 朝倉いろは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/118

第五十九話 リヒトの行方

 地の底に堕とされた弟神と、安寧神オルフェルトニウスが同一の神だと…アシュベルはスナイデル公爵の研究内容を聞いたが、俄には信じ難かった。だが、もしそれが証明されれば、双子の弟に対する認識も変わっていくだろう。

「研究者達も皆同様の意見だった。弟神がオルフェルトニウス神だと記された文書を裏付ける文献を探していた際、壁の裏に隠された古い歴史書が見付かった。だが、肝心の神の御名を記したと思われる箇所は墨塗りで隠されていた」

「名を葬ったのは人間だったってことか?」

「…そうなるのだろうか」

「神託のように筆がひとりでに動いたなら兄神が消したんだろうけどな」

「まぁ、そこは分からん。過去に双子の王族が争った記録でも出てくれば、人間の仕業というのも信憑性を帯びてくるがな」

「その墨塗りを剥がすために必要なもんを、リヒトが探しに行ったのか」

「そうだ。私の父とリヒト…二人とも双子の弟だ。双子の弟の手で解読したいと」

「スナイデル公が?」

「…アリシアが出奔した後、私とリヒトは父に助力を請いに行ったのだ。私達は、アリシアを自由にしたかった。父は、リヒトの存在も、アリシアが本当は生きていることも何も知らなかった。全て母が隠していたから…だが、母を止められるとしたら父しかいないと思った…そして父も、双子の兄の身代わりなのだと知らされた…」

 …

 事の詳細を聞かされたアシュベルは何とも言えない表情で腕を組んだ。

「お前の母親は気の毒だが、それでチャラになる話でもねえぞ。お前も逆らえなかったんだから同罪だ。スナイデル公もリヒトも、双子の弟だからと蔑ろにされたんだ…俺も双子の弟に関しては神殿に預けられるもんとしか思ってなかったけどな…一番の被害者はアリシアだ!」

「その通りだ」

「起こったことは最善にするしかねえ。お前がアリシアと結婚しなければ…最初からアナベルと結婚していたら…そこの子供達は生まれなかった。少なくとも、ルーセントはいなかった。お前はその方が良かったと思うか?」

「思うわけがなかろう」

「思いませんわ!」

 間髪入れずに声を揃えた二人に、アシュベルは少し口の端が上がった。

「その鉱石が採れるのはどこだ?」

「エーデルハイド領だ」

「西の辺境か。最西端の岩山に魔獣の湧く洞窟があるな」

「そうだ。その岩山にある特有の鉱石が、魔獣の瘴気を浴びて稀に変化するという」

「よし、そこに行くぞ。ヴィンセント、お前も来い。魔獣に喰われてなければ、そいつは多分生きてる。俺はお前らを許せねえが、あいつはな…あのお人好しはな…ほんとに良い奴なんだよ…そのあいつがな、お前らのことと…リヒトのことを心配してる。だから行く」

「分かった。行こう」

「それと、これを…」

 手荷物から、もう一つ瓶を取り出す。それは、林檎のコンポートが入った瓶だった。

「アリシアがな、ルーセントが喜んで食べてくれたから、渡して欲しいと。それしか思い出がないと…泣いてたんだぞ」

 アナベルは涙を浮かべながら瓶を受け取った。

「…ルーセントを頼むぞ」

「…ええ、お任せを…」

 銀の髪と青紫の瞳に目を奪われがちだが、アリシアの面影を確かに宿したルーセントの表情。ふっくらした頬と緩く巻いた髪は幼い頃のアリシアにそっくりだった。この、可愛い息子を命懸けで産んだ直後に奪われたアリシア。どんなに辛い思いをしたことか。怒りを堪え握り込んだ拳。その手のひらには血が滲んだ。


 翌日、旅の支度を整えた二人は、やはり護衛に付くと言って譲らない数名の騎士達と共にエーデルハイド領へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。