第六話 剣技の試験
夏季休暇明けの剣技試験は、さながら東西南北辺境領対抗戦の様相を呈している。試験は組分け対戦と、その上位者によるトーナメント戦だ。腕自慢揃いの辺境領出身者は順調に勝ち進み、中央に近い領地の子息達は早々に退場していった。だが彼らは文系の試験でこそ力を発揮するので、適材適所というやつだ。
アリシアは去年までは極力目立たないようにしていたが、今年はどうせ目立っちゃうから、と吹っ切れたようだ。笑顔で剣を振り回し、お上品な令嬢達を慄かせていた。ついにはアナベル嬢とも対戦し、一撃も受けることなく首筋に模擬剣を突き付け勝利したのは痛快だった。
辺境領対抗戦も大事だが、俺にとってもっと大事なのはヴィンセントとの対戦だ。中央の貴族にしては良い剣筋をしている。神の思し召しか、奴と対戦出来ることとなった。願ったり叶ったりだ。
夏季休暇は魔獣討伐三昧だった。兄達は俺の心情を察してか鬼の稽古を付けてくれた。俺にとっては手合わせの域ではない、まさに鬼神を四人相手にしているようだった。そのうち父、ついには祖父まで鍛錬場に現れた。数多の魔獣や不届者を屠ってきた祖父の戦斧のギラつきは俺を戦慄させた。眼光で死ぬかと思ったほどだ。これが辺境の家族愛かと、色んな意味で有り難く涙が出そうだった。容赦のない扱きに、戦い慣れた家臣達ですら皆震え上がっていた。
「勢い余って殺しても気にするなよ」
「そうだ、白熱すれば模擬戦でも死ぬ奴はいるからな」
「ただの事故だよな」
などと、血の気が多過ぎる激励を受け、背中を叩かれながら送り出してくれれば、気合いも入るというものだ。負けて帰る訳にはいかない。というか、負けたら帰れない。
「公爵家の連中なんぞ恐るるに足らん。あ奴らは中央でふんぞり返っているだけで、辺境の赤子より弱い」
…そんな奴らに負けようものなら、と睨まれたのは俺だ。眼光で死ぬ…
…いつかシメてやりたいと思っていたのだ。お前の女を奪った公爵家の優男など殺してしまえ…
と、祖父が一番血の気が多い。
…もちろん、殺す気でやるさ…
模擬剣に魔力を籠め、ヴィンセントと対峙する。ピリピリとした魔力の火花が散っている。剣技の試験では魔法の行使は禁じられているが、模擬剣に魔力を籠めることは許可されている。そんな中、魔力がほとんどないアリシアは決勝まで勝ち進んだ。決勝の相手は、アルメニア王国南部辺境伯の令嬢オーレリアだった。王国屈指の戦乙女と名高いオーレリア嬢に一歩も引かず、負けはしたものの「時折剣筋が消えたように見え、危なかった」と言わしめたアリシア。見事な次席だ。熱い戟を飛ばされた気分だ。あんな試合を見せられては、否が応でも戦意が昂る。
剣を構え向き合えば、周囲の音は消えた。
ヴィンセントの剣は風の魔力を帯び、鋭く速かった。だが、俺の魔力は炎だ。風に煽られれば燃え上がる。しかも負けられない相手だ。ヴィンセントを軽く往なして勝ちたい気持ちはあるが、俺の剣はお上品な宮廷の剣術ではない。なりふり構わず生き残り、敵を葬る泥臭い剣だ。じりじりと間合いを詰め一瞬の隙を見逃さず斬り込む。体勢を崩しよろめいたヴィンセントを蹴飛ばし地に付かせたら、馬乗りになり剣を顔の横に突き刺した。
「勝者アシュベル・タナトス!」
音が戻り周囲の騒めきが聞こえる。勝ち名乗りを受ければ野太い歓声と令嬢達の悲鳴で空気が震えた。
腕を振り上げ歓声に応えると、立場上ヴィンセントの応援をしたであろうアリシアも、笑顔で拍手を送ってくれた。
…勝ったぞ、アリシア。
…俺の剣はお前に捧げる。
言えない言葉を胸に秘め、剣を鞘に納めた。




