第五話 帰郷
「ねぇお姉様、本当に騎馬で帰るの?」
馬車の窓から顔を出したのは、アリシアの妹オリアナだ。アリシアは馬に鞍を乗せながら、
「ええ、もちろん。オリアナも騎馬で帰れば良いのに」
と、笑う。
「やぁよ、お尻が痛くなっちゃうもの。それに馬車の周りに騎士がいっぱい居て、お姫様みたいでウキウキしちゃうわ」
帰郷の旅はアリシアとオリアナ、それに迎えに来た従者達だけでなく、近隣領の子息連中も一緒に帰ろうぜと言い出し、大所帯になってしまった。それぞれの領境まで賑やかな道中になりそうだ。
「魔獣が出ようと盗賊が出ようと、我々がお守りしますよ、お姫様」
「ありがとうルーファス。頼りにしてるわ」
ルーファスはフィデール領と隣接するハウゼン領を治める子爵令息だ。フィデール子爵と共にタナトス家の家臣でもある。そして、オリアナとは婚約関係にあった。
うっとりと見つめ合う二人に多少の苛つきを感じながら、
「守るも何も、その辺の魔獣なんかオリアナなら一撃だろ」
と、言えば、
「アッシュ兄様酷い!そんなに強くないもん!三撃くらいだもん!」
「オリアナは可憐な淑女ですから五撃くらいかかりますよ」
「淑女って何だよ」
「辺境に淑女なんかいねぇよ」
「すぐ死ぬからな」
「アリシアも盗賊くらいなら秒で埋めれるだろ」
「そうね、魔法なんか要らないわ」
などと、あちこちから返される。この気安いやり取りが心地良い。辺境の連中は気の良い奴らばかりだ。厳しい環境だからこそ結束力もある。血の気の多さは愛嬌のようなものだ。
「リア、準備出来たか?」
「ええ」
「ヴィンセントには会ったのか?」
「昨日会ったわ。騎馬で帰るって言ったらびっくりしてたけど」
「まぁ、そうだろうなぁ」
「この子と一緒に遠乗りするのも最後かも知れないわ。よろしくね、ロイ」
と、愛馬を撫でる。小柄なアリシアには少し大きいが、脚が強く逞しい馬だ。魔獣が出ても怯えずに走る。馬も俺達の強さを知っている。だから恐れないのだ。
辺境まで馬の脚で五日。荷物を引く馬車やオリアナ達淑女を乗せた馬車もあるため、六、七日掛かる行程だ。アリシアとの遠乗りも最後だろう。終わらない旅になれば良いのに、などと叶わない望みを抱きながら、一行は出立した。




