第四話 校内舞踏会
可愛い、可愛すぎる…ヴィンセントの野郎と一緒のアリシアも可愛い。去年までは、自分がその位置に居たのに、とアシュベルはヴィンセントを睨んだ。今年はエスコートする相手もいない。同じく相手のいない同級生達と度数の低い酒を片手に談笑していると、周囲が騒めいた。騒めきの中心は神託の二人だ。気に入らない。近くに居た令嬢の悔しそうな顔ときたら、酷いもんだ。…ああ、自分も同じ顔をしていると思う。
今日のアリシアはヴィンセントと揃いの衣装だ。緩く編んだ髪から柔らかい後毛が落ちている。あいつの色に包まれたアリシアを見て、どうしようもないやるせなさが募り、酒を煽る。クソ、飲まずにやってられるか。
…だが待ってろ。夏季休暇明けは剣技の試験だ。お前を倒して首席になってやる。黙ってアリシアを渡す訳にはいかない。領地では父と兄達に稽古をつけてもらうつもりだ。魔獣討伐にも同行して実戦経験を積み、そして俺はアリシアの騎士になる。一緒には居られないが、そう決めた。北の辺境は俺が守る。アリシアを泣かせてみろ、お前を殺しに行くからな…と心の中で思っていると、遠巻きに二人を見つめる令嬢が居た。アナベル嬢だ。氷のような魔力を感じる。本人は抑えているつもりだろうが、魔獣の殺気のような鋭さを放っている。タナトス家の男子は幼児の頃から魔獣討伐に同行させられ、家臣は老若男女問わず血の気の多い武闘派だらけの環境で育つため、殺気には敏感なのだ。でないと死んでしまう。
目が合えば氷の魔力は即座に消え、澄ました微笑をたたえて、エスコート役の誰かとダンスホールに向かった。おお、怖。女の嫉妬は恐ろしいと側から見て思う。だが気持ちは分かる。あの令嬢も俺と同じなのだろう…気の毒だが、アリシアの身に害が及ぶようなら話は別だ。他人の悪意にとんと疎いのがアリシアだ。その辺の魔獣なら、魔法を使えなくとも剣の腕だけで仕留めることが出来るほど辺境で揉まれているとは言え、社交の舞台では歯が立たないだろう。万一の時にはアナベル嬢に痛い目を見て貰う必要があるが…出来れば女に手を出したくはないな。
アリシアはニ、三曲踊ればデザートを食べに来るだろう。甘いものに目がないアリシアだが、特に好きなのは柑橘系の爽やかな甘みのものだ。俺の方がアリシアの好みを知ってる。俺の方がアリシアのことが好きだ。小さい頃のアリシアはふっくらころころとして、それはそれは可愛かった。あの頃のアリシアをヴィンセントは知らないと思えば、少しだけ優越感に浸れた。
…ああ、自分も他人のことを言えない。ヴィンセントに向かって殺気を飛ばしてしまいそうだ。試験は殺す気でやるからな。覚悟しろ。漏れ出しかけた熱い魔力を抑えながら、踊る二人を見ていた。




